朝焼けにゾンビ
家猫のノラ
第1話
ゾンビ病、突如世界に蔓延した病はあっという間に世界を覆い尽くした。
その名の通り、感染した人はゾンビになる。噛み付くことで仲間を増やした。
感染したものは自我を失った。
終わりゆく世界で、この小さな学校で、少女が二人、最後のひと時を過ごしていた。
「最後は学校の屋上か」
少女が少女を背負うのはやはり無理があり、半ば引きずるようにしていた。
「最後なんかじゃない!!」
すっかり弱って浅い呼吸の少女を下ろし、二人は向かい合って座った。
「いいね、ここ。今なら先生にも叱られないし」
まだ明けない東の空を眺め、逃亡もここまでかと悟った。
「泣くなよ、もうどうせ無理なんだから」
「無理なんかじゃない、きっと誰か、助けにくる」
「ううん、無理だよ、もう誰もいない、私たちがここにいるって誰も知らない」
人間の匂いに誘われて、ゾンビたちが校内を這いずり回っている気配がした。じきにここにもやってくるだろう。
「そんなこと、ない!!」
「もういいの、私は大丈夫」
「私は大丈夫じゃない!!」
「嬉しい…」
少女の青白かった肌に血色が戻った。
「さっき私噛まれたじゃん」
「うん」
「なんか分かった気がする」
「何が?」
「ゾンビが仲間を欲しがる気持ち」
「え?」
「寂しいんだろうなって、とんでもなく寂しいんだろうなって」
「何言ってんの!ゾンビに意識はない、寂しいとかないんだよ!!」
「寂しいっていうのは意識じゃない、魂が叫んでんだよ」
「そんなの…」
「じゃあ私がゾンビになったらもう私は消えるの?もう私じゃないの?」
「うっ…」
「私は寂しい、ずっと寂しい」
「私がいる!!」
「無理だよ」
空の下の方が心なしか白みはじめた。この二人に残された気力といえば、ただじっと待つことぐらいではないだろうか。
「ねぇ、あんたもゾンビになってよ」
「…」
「ねぇ、お願いだよ」
「…」
「もう無理だよ、寂しいよ」
「…」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ」
朝が明けた。悲痛な叫びを閉ざすように二人の唇が重なった。
また二人の人間がゾンビに飲まれた。
その二人が屋上から動くことはなかった。
もう寂しくないね。
朝焼けにゾンビ 家猫のノラ @ienekononora0116
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