第41話 姉様(6)

 オートマタに案内してされてたどり着いたのは岩と土に挟まれるように出来た洞窟であった。

「いや、洞窟と言うよりも巣穴か」

 顎を摩りながらナギは穴の周辺を確認する。

 外に放り出された固い土、だいぶ薄くなっているが、大きな鉤爪のあるだろう3本指の大きな足跡、そして排泄物の混じった獣臭・・・。

 巣穴から漂う臭いにアズキが小さく唸り声を上げる。

珪石蜥蜴ガラストカゲの棲家じゃ」

 オートマタが答える。

「珪石蜥蜴?」

 聞いた事のない名前にナギは眉を顰める。

「文字通り珪石・・ガラスを食べる蜥蜴じゃよ。この辺りの地下は珪石の鉱脈なんじゃ。奴らに取っては最高の寝ぐらじゃろうな」

 ナギの脳裏にガラスに群がる巨大な蜥蜴の姿が浮かぶ。

「そんなのに何の用がある?」

 ナギの質問にウグイスが答える。

「蜥蜴には用はないわよ。必要なのはそいつらが食べてる珪石よ」

 何でも珪石は釉薬という陶芸で色付けする時に欠かせない材料の一つらしい。

「長石や銅やコバルトなんかは揃っているが、ここの珪石は一級品だか、な。最高の物を作るならここしかない」

 そこまで聞いてようやくナギは自分が呼ばれた理由を理解出来た。

「つまり私がこの中に入って珪石を採取してくれば良い訳ですね」

 巣穴の入口の爪痕を見ればいかに珪石蜥蜴が巨大で凶暴かが分かる。確かにアケ達に行かせる訳にはいかない。

「ごめんね。ナギ」

 アケが申し訳なさそうに言う。

「小さな蜥蜴くらい大丈夫って言ったんだけど、ウグイスが暗くて足場が悪いからダメだって言うの」

 怒られたばかりの子供のように肩を萎め、形の良い唇の端に指を当てる。

 ナギは、眉を顰める。

「小さい?」

 巣穴の爪からすると裕に小さな岩ぐらいの大きさはあると推定出来るが・・・。

 ウグイスに目をやると彼女は唇の前で両方の人差し指でバツを作ってる。

 なるほど・・・そう言うことか。

 ナギは、アケに視線を戻す。

「大丈夫ですよ。蜥蜴くらいなんてことありません」

「でも・・・ナギも忙しいのに」

 アケは、肩を小さく萎める。

 そんなアケを見てナギは安心させるように笑みを浮かべる。

「大丈夫ですよ。姉様の為ならどこへでも。それに蜥蜴なんて遠征で食糧がない時に生でよく食べました。いざとなったら食ってやりますよ」

 そう言って笑うと、アケは何故か頬を引き攣らせて身を引いた。ウグイスも「馬鹿」と言わんばかりに額に手をついてため息を吐く。

 ナギは、女子2人の反応の意味が分からず首を傾げる。

「そうそう、嬢ちゃんにもやらなければいけんことがあるからな」

 オートマタは、そう言って丸い両腕を天高く掲げる。する両の手の平に大きな穴が開き、腕がスライドするように伸びる。

 変化はそれだけではない。

 両方の足が開脚し、四角い胴体が地面に落ちる。腹部にアーチ型の穴が開く。両足が伸びて地面に突き刺さり、固定される。口の部分が大きく開き、その中には陶土の塊は色の付いた釉薬の原料そして筆が所狭しと並べられていた。

 形こそ従来の物と違うが、その姿はまさに陶芸窯であった。

「釉薬は珪石が手に入ってから儂が精製する」

 口は材料置き場に変化したので動いていないがどこからかオートマタの声がする。

「まず嬢ちゃんは儂と一緒にカップの形を整えよう」

 地面に突き刺さった両足の太腿部分に細長い長方形のスペースが現れ、そこから長細い板が現れる。左右から伸びた板は中心で結合し、作業台へと変わる。口から大きな陶土が転げ落ちる。

「お主らは質の良い珪石を頼むぞ」

 目線だけをナギに向けてオートマタは言う。

「お主ら?」

「りょうかーい!」

 ナギが疑問を口にする前にウグイスが元気に返事する。

 ナギが驚き、目を大きく開ける。

「君も行くのか?」

「当然!あんた1人じゃ心配だわ」

「しかし・・・」

「じゃあ、アケ行ってくるね」

 ウグイスは、右手をヒラヒラ振ってアケに言う。

「気をつけてね」

 アケも手を振り返す。

 そしてウグイスは、珪石蜥蜴の巣穴に恐れる事なく入っていく。

 ナギは、アケに一礼するとその後を追いかけて入っていった。

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