第32話 幻想DIY(6)
水に濡れた黄緑色の身体を震わせ、丸い目に怒りの炎を浮かべてアケ達を見下ろしている。その後ろに避達が描かれながらもアケ達を睨みつけていた。
「やっば・・・」
ウグイスは、口元に手を当てる。
「怒ってる・・・よね?」
アケも頬を引き攣らせる。
その言葉を肯定するようにアズキが小さく鳴く。
「仕方ない。こうなったら」
ウグイスは、戦う決意をし、右の手の平を広げ、水色の魔法陣を展開する。
「ダメだ!」
オモチがそれを制する。
「我が国の掟を忘れたか!」
"掟"と言う言葉にウグイスの表情が固くなる。
その掟はアケも知っている。
ちょっと前にツキから教えられた。
生きる目的以外で狩ってはならない。
「今がその時じゃないですか⁉︎」
ウグイスが抗議する。
「それは最終手段だ!我々が逃げればいいだけのこと!」
オモチは、カワセミを見る。
カワセミは、大きく頷くと左手を卵の殻に翳す。
左手に緑の円が現れ、魔法陣を描く。
緑の魔法陣は、カワセミの手を離れると卵の殻の表面に張り付く。その瞬間、風が舞い起こり、卵の殻を宙へと浮遊させる。
その瞬間、ペパーミントバード達が怒りの声を一斉に上げる。
「いくぞ!」
カワセミは、両の翼を広げ、宙へと浮かび上がる。
その胴体にオモチが飛び捕まる。
「ちっ!」
ウグイスは、魔法陣を解除さ、両の翼を広げ、宙へと舞う。
ペパーミントバード達が怒りの声を上げながら迫り来る。
「アケ!」
ウグイスが叫ぶ。
アケは、アズキを抱えたままウグイスにしがみ付く。
ウグイスは、翼を大きく羽ばたかせ、宙を舞う。
カワセミもそれに続き、オモチを抱えたまま飛び上がる。
卵の殻がゆったりと浮遊しながら付いてくる。
空を飛べないペパーミントバードが短い翼をばたつかせ、降りてこいと言わんばかりに鳴く。
しかし、そんな言うことを聞く必要はない。
4人はそのまま空へと逃げようとした。
刹那。
「危ない!」
アケが叫ぶ。
ウグイスは、咄嗟に身体を反らす。と、その横を何かが弾丸のように突き抜けるように飛んでいく。耳に空気を切り裂く軽い音が響く。
ウグイスは、自分の頬が濡れていることに気づく。
明らかに汗ではない。
下を見るとペパーミントバード達が細い嘴を空に、アケ達に向けている。
ヒュンッ!
再び空気を切る音が響く。
今度はウグイス達にもはっきりと見えた。
ペパーミントバードの口から何かが放たれたのだ。
オモチが素早く緑色の魔法陣を展開し、風の壁でそれを防ぐ。
水だ。
ペパーミントバードの細い嘴を銃口にして放たれた水が弾丸となってアケ達を襲ったのだ。
あれに当たっていたら・・・ウグイスは背筋が凍った。
「アケよく見えたね」
「目だけはいいの」
ウグイスにしがみ付いたまま蛇の目を指差す。
「来るぞ!」
カワセミの声に緊張が走る。
オモチは、先程よりも大きな緑の魔法陣を展開する。
魔法陣の裏にいるのに強い風を感じる。
ペパーミントバード達が一斉に水の弾丸を放つ。
まるで逆から吹き荒れる嵐だ。
しかし、その嵐をオモチの魔法陣は難なく防ぐ。
防がれた水の弾丸は雨となって大地に降り注ぐ。
「さすがオモチ様」
ウグイスが賞賛の声を上げる。
アケも思わず拍手しそうになる。
「そのまま退却するぞ」
カワセミは、大きく翼を動かす。
ウグイスもそれに倣って翼を動かす。
オモチの魔法陣をそのままにゆっくりと空の上を進み、卵の殻も付いてくる。
ペパーミントバード達が悔しそうにこちらを睨む。
このまま無事に逃げ仰る、そう思った時だ。
「あっ」
「ぐぎゃあ!」
アケの声と空の上から声が被さる。
4人は一斉に空を見上げると太陽に重なるようにペパーミントバードが浮かんでいた。
アケ達逃すまいと跳躍して追いかけてきたのだ。
ペパーミントバードの嘴から水の弾丸が放たれる。
カワセミとウグイスは、反射的に避ける。
しかし、嘴の弾丸は止まらず連射される。
その内の一発がアケの横を掠め、衝撃に手が緩む。
「ぷきっ!」
アズキがアケの手から零れ落ち、宙を舞う。
「アズキー!」
アケは、手を伸ばす。
しかし、届かない。
アズキは、空を落下していく。
「ウグイス!」
「無理!今は!」
ウグイスは、ペパーミントバードの攻撃から避けるのに精一杯だ。
アケは、落ちていくアズキを見る。
アズキは、アケを見ている。
その目は助けを求めるものではなく、アケを安心させるように、大丈夫と言って微笑んでいるように見えた。
アケは、強く唇を噛み締め、ウグイスから手を離した。
「アケ⁉︎」
ウグイスが悲鳴ように声を上げる。
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