第21話 カワセミとウグイス(2)

 緑髪の少女は、木の匙でトロトロの卵をご飯とお肉、そして玉葱を一緒に掬って口に運ぶ。その瞬間、緑色の目を輝かせ、尾羽をピンピン動かす。

「おいひー!」

 緑髪の少女は、至福の声を上げる。

 元々幼い顔つきなのに喜ぶ顔は幼女のようだ。

 それに反応するようにアケの足元でドングリと椎の実のカリカリを食べてるアズキも嬉しそうに声を上げる。

「口にあったみたいで良かった・・・」

 アケは、ほっと胸を撫で下ろす。

 緑髪の少女が嬉々として木の匙を動かして親子丼を食べる度に匙を握る手から後ろの翼が揺れる。

 水色髪の少年も木の匙を動かして黙々と親子丼を食す。顔はむすっとしてるが尾羽が少女のようにピンピンッと動いているから気に入ってくれているようだ。

 オモチ曰く、この兄妹は、ハーピーと呼ばれる種族で両手が鳥のような翼の形をしているものの鳥とは関係なく、どちらかと言うとエルフのような妖精族に近いらしい。だから鳥を食べることは何の問題もなく、むしろ空を旅する2人にとっては主食と言っても過言ではないそうだ。

 ちなみにオモチは、探し物があるからと席を外している。

 それでもアケは、どこかしら後ろめたさのようなものを感じてしまう。

「どうしたアケ?」

 アケの態度が気になったのか、ツキが匙を止める。

 アケは、ぷんぷん首を振って「何でもないよ」と言って箸を使って親子丼を食べる。

 その様子を緑髪の少女がじっと見る。

「奥方様、きれい」

「ふえっ?」

 アケ、思わず声を上ずる。


 お・・・奥方⁉︎

 それに・・・きれい⁉︎


 あまりにも聞き慣れな過ぎる言葉にアケの心臓は激しく高鳴り、動揺する。

「そんなに木の棒を綺麗に使えるなんて凄い・・」

 何だ箸の使い方かあ・・アケはがっかりしつつもそりゃそうだよな、私が綺麗なわけないよなと思う。

「お顔も綺麗で所作も綺麗で憧れちゃいます」

 そう言って緑髪の少女は、自分の頬に手を当てて微笑む。

 今度こそアケの頭はポンっと音を立てて弾ける。

 照れと恥ずかしさで思わず箸で器を突いてしまう。

 その様子をツキは、口元に笑みを浮かべ、目を細めて見ていた。

「○□、奥方様を揶揄うな」

 水色の髪の少年が緑髪の少女を睨んで窘める。

「揶揄ってないよ。本当のことだよ」

 緑髪の少女は、唇を尖らせる。

 その唇に大量のご飯粒が付いていることに気づき、水色の髪の少年は、ナプキンを持って手を伸ばし、少女の口元を拭う。少女は、嫌がりつつもそのまま拭かれる。

 本当に良く似た兄妹だな、とアケは2人の顔を改めて見比べて思う。

 そして仲が良い。

 性格はまるで違うのにお互いを想いあっていることが側から見ても良く分かる。


 兄妹ってこう言うものなのか・・・。


 初めて見る兄妹の絆と言うものにアケは、ぎゅっと胸が締め付けられるのを感じた。

 ツキは、アケの表情が曇ったことに気づくも何も合わずに一瞥した。

「可笑しいですねえ」

 オモチが首を傾げながらリビングに戻ってくる。

「どうした?」

 ツキが黄金の双眸をオモチに向ける。

 オモチは、ずんぐりとした手で頭を掻く。

 困っているという表現だ。

「コウボクが見当たらないんです」

「コウボク?」

 アケは、聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 魔法か何かの専門用語だろうか?

 兄妹たちもオモチの言葉に動揺する。

「ないんですか?」

 緑髪の少女が力無く、悲痛に言う。

 オモチは、ふんっと鼻息を吐く。

「どこに置いたんだ?」

 ツキが聞くとオモチは、右側を指差す。

「厨の棚の上に置いておいたんです。アケ様が来るまでは誰も出入りしなかったので保管には最適でした。水気も上手に抜けた上物なのに・・」

 聞けば聞くほど分からない。

 厨の棚にそんな大事なものが置かれていただろうか?

 アケは、思い出そうと下を向く。

 そこにあるのは食べかけの親子丼・・・。

 その瞬間、アケの脳裏に不吉な考えが過ぎる。

「ねえ、オモチ・・・」

 アケが固い声で言うとオモチが訝しんで振り返る。

「どうされましたアケ様?」

「ねえ、コウボクって・・・」

 どんなのと聞く前にオモチが説明し出す。

「ああっ聞き慣れないですよね。香る木と書いて香木です。2人がこっちに渡ってくると聞いて用意しておいたんです。大きな木の枝ですよ。草花の深い香りがするんです」

「見つかったらアケも少しもらうといい。寝る前に焚いて嗅ぐとよく眠れるらしい」

 アケの表情が誰にでも分かるくらいに青ざめる。

「どうした・・アケ」

「アケ様?」

 2人は、アケの顔を覗き込む。

 アケの蛇の目が大きく揺れる。

「・・・しちゃった」

 アケの言葉が聞き取れず、2人は首を傾げる。

「薪にしちゃった・・・」

 今度こそはっきりと聞き取れる。

 空気が凍りつく。

 アズキの咀嚼音のみがリビングに響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る