第10話 日と月の出会い(4)

 打掛を脱ぎ、掛下だけになって屋敷の外に出るとまだ夕日が沈んでいないと言うのに月が昇っていた。

 形の良い金色の満月だ。

 ここでは太陽と月が顔を合わすことが出来るのだな、アケは改めて思う。

 金色の光を纏った黒狼は、草の上に腹をつけ、凛々しい顔を持ち上げ、黄金の双眸をアケとエルフに向けていた。

 黒狼の前には大きな鹿が寝そべっていた。

 遠目から見てももうその身体から命が無くなっているのが分かる。

 エルフは、目を輝かせる。

「これは見事な鹿ですね!王!」

 エルフは、鹿に駆け寄りその毛皮に触る。

「ああっ運がよかった」

 黒狼は、アケを見る。

 黄金の双眸に見られ、アケは身を震わせる。

「ここに来てから何も食べてないから腹が減っているだろう?」

「えっ?」

「今、締めたばかりの新鮮なものだ。遠慮なく食すが良い」

 大きな口が開き、氷のような牙が覗く。

 ひょっとして・・・笑ってる?

 アケは、表情を引き攣らせ、後ずさる。

「君の歓迎会だよ。遠慮しなくていい」

 アケが遠慮しているのかと思ったのかエルフがポンっとアケの肩を叩いて微笑む。

「血抜きもしっかりしてあるから臭くないよ」

「ああっしっかりと水に晒しておいた」

 2人(?)の声はとても楽しそうだ。

 つまりこれは嫌がらせでも何でもなく本当に歓迎会と言うことになる。

 そしてこれは歓迎の証・・・。

 アケは、鹿をじっと見る。

 命こそ失くしているものの、豊かな体毛に覆われ、自然の中で逞しく鍛えられた歯なんて一本も立たなそうな生まれたままの姿を。

「王」

 いつも間にか黒狼の横に立っていた白兎が攻めるように主を見る。

「どうした?」

「幾ら何でもこのまま食べれる訳ありません」

 それはまさに助け舟だった。

 アケは、顔を輝かせる。

 しかし、それが泥舟だと直ぐ気がつく。

「せめて切り分けてあげて下さい」

「おおっそうか」

 黒狼は、右前足でぽんっと地面叩き、エルフを見る。

「すまないが解体してくれるか?1番良い部分を彼女に」

「畏まりました。王」

 エルフは、右手を左の肩に合わせて恭しく頭を下げる。

 そしていつの間にか手に持っていた肉厚のナイフを持って鹿に近づき、その腹を裂き、広げ、またナイフで裂き、丁寧に腕を突っ込むと濃い血の色をした臓器を取り出す。

 エルフは、肝を手に持ってにっこりと微笑むと立ち上がってアケの前に差し出す。

「さあ、1番栄養のあるところだよ。召し上がれ」

 黒狼が、白兎が、そしてエルフが好意的にアケを見る。

 アケは、3人(?)と肝を見比べる。

「あ・・・」

 アケが唇を震わせる。

 3人(?)は、首を傾げる。

「あの・・・」

「何だい?」

 エルフは、眉を顰める。

 アケは、両手をぎゅっと握って声を絞り出す。

「火ってありますか?」

 アケの口から出た言葉に3人(?)は顔を見合わせる。

「後、お鍋と・・・出来ればお塩も」

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