第4話 初の友達(LOIN)。
実行委員を決めた日は特に何もせず、いつも通り独りで帰路に就いた。
その翌日。
実行委員として初めての仕事であり、大きな仕事の一つが行われた。
委員会だ。
この紫陽祭実行委員会は、実行委員内での紫陽祭に関する最新情報の共有や、要綱の説明、スローガンの決定や、各クラスの出し物やイベントが被らないように調整するなどを行う実行委員の集会だ。
今回は初めてということで、まだ配られてなかった、紫陽祭要綱の配布、要綱の説明、要所要所の詳細な説明、質疑応答など、一番基本的な、基礎的なことが行われた。
そして、要綱が配られ、一通り説明が終わって、要綱を作成し、紫陽祭の本部的役割を果たす生徒会への質疑応答が終わっての今現在。
僕はなぜか………
委員会を行っている教室の真ん中で…僕を合わせた男子生徒七人と…円を描くように集まり………
ジャンケンをしていた。
それも、藍鉄色のボーイッシュな髪と、
どうしてこうなった!!?
心の中で何度叫んだことだろうか。
実行委員の仕事を始めてからそれほど経っていないが、もう辞めたくなってきた…。
こうなっている理由は、質疑応答の終わった直ぐ後に遡る。
~~質疑応答の直後~~
生徒会書記の男の先輩が口を開いた。
「先程の説明通り、基本的に、どのクラスがなんの出し物を行うかは各クラスの判断に任しますが、劇だけは、体育館で行う関係上、時間が決まっているので、劇ができるクラス数も決まっています。三年生4クラス、二年生3クラス、一年生1クラスの計8クラスです。この学校は、基本的に二年生と三年生の間にクラス替えが存在していないので!三年生の4クラスは機会の公平性の観点から、二年生で劇を行った、3クラス以外となります。しかし、ニ年生と一年生のクラスは決まってないので、今から決めたいと思います。まずはニ年生から決めましょう。二年生の各クラスの代表者は中央に円を描くように集まってください。」
その後、二年生の各クラス実行委員の片割れが中央に集まり、じゃんけんをする。
どの人がどのクラスかは知らないが、5度目ぐらいのじゃんけんで勝ち残っていた3人の所属するクラスが劇をするのだろう。
そして、まぁ、二年生が終われば次は一年生。
また、生徒会書記の男が口を開く
「二年生の劇は1組・4組・5組にお願いします。」
「次に一年生の劇を行うクラスを決めたいと思います。一年生の各クラスの代表者は中央に円を描くように集まってください。」
そして冒頭に戻るのだ。
〜〜 〜〜
そしてジャンケンが始まる。
劇は他の縁日やバザーなどの屋台・展示とは違い、空いている時間が比較的多くなり、また、体育館で時間を取るという関係上、どうしても注目されるので、紫陽祭の花形となっている。
だからこそ、朝海さんも応援してるわけで。
ところで、この前の自己紹介のくじと言い、実行委員決めのくじと言い、僕が悪運が強いのは周知の事実なのだが、この悪運の定義の話をしよう。
この悪運というのは、僕が…
「あ、ここで当たったら良くない…。」
と感じるか否かなのだ。
僕は今、
(あ、ここで勝ったら多分朝海さんにはとても喜ばれる。その影響で他の人からの嫉妬
と注目の視線は強くなるだろう…。目立たず、ひっそりと暮らしたい僕にとってここで勝つのは良くない…!)
と思った。
いや、
と思ってしまった。という方が正しいだろうか。
つまり、ここで勝つのが悪運だ!と身体が、脳が認識してしまったのだ。
これで、もう止まれない。
僕の悪運の強さは止まらない。
勝ってしまった。
しかも、一番注目される、一回目で一人勝ちというおまけ付きで。
想像通りに、朝海さんは大喜び。
跳び上がりそうな雰囲気だ。
いつもクールで周りをよく見ている朝海さんには珍しい。
そんなにやりたかったのだろうか。
そして突き刺さる嫉妬と注目の視線。
本当に、なぜ、どうして、こうなった!?
その後は特に何もなく、無事?に実行委員を終えることができた。
まぁ、あそこまで注目されても、僕がすることは変わらない。
また一人で帰って、いつもと同じ生活をする。
人生とはそんなものだ。
いくら僕の悪運を呪っても、過去を呪い後悔しても、もう、体質や過去は変わらない。
僕たちのような、世界にとってちっぽけな一人の人間にできるのは明日の自分の生活を今日以上だと感じれるように、最善を尽くすことだけのだから。
だから、この実行委員を頑張ろう。
一応選ばれたわけだから。
今日が昨日より、明日が今日よりいい日だと感じれるように。
任されたことはしっかりこなそう。
やるべきことはやり通そう。
自分の力を尽くそう。
それが多分、未来で後悔を少なくする方法だと思うから。
それが多分、最善を尽くすということだと思うから。
なんか…自分語りしてしまった…。
若気の至りか…?まだ若いけど…15歳だし…。
な〜んかしんみりしてしまったけど、取り敢えず、今日はこのまま帰って、音楽聞いて、家事して…今日は宿題はなかったはずだよね…。
なんかイライラしたし、ボカロ曲でギターでもかき鳴らそっかな…。
まぁ、その辺は家帰ってから決めるか…。
そんなことを考えながら帰路に就く。
久しぶりイヤホンを外しての下校だ。
僕の家はこの学校から徒歩10分もかからない。
結構近いのだ。
でも、学校から見て、最寄り駅とは逆方向なので、こっち方面に帰る人は意外と少ない。
なのに…何で…
後ろから足音がするのだろうか…。
しかも学校から5分ぐらい経っても付いてくる…。
この音量だし、10mくらいを維持してるのか…?
でも、何で…
こんな根暗で陰キャな僕をストーカーする意味なんてないしなぁ…。
ハッ!もしかしてさっきジャンケンで負けた腹いせに…。
ってんなわけ無いか…。
きっと、偶々、家の方向がここまで一緒だっただけだろう。
ん?なんか近付いて来る…?
あ、足音速くなった。
あ、足音大きくなってきてる。
これガチで近付いてきてるやつだ。
あ、もう、すぐ後ろにいる…。
あ、肩に手、置かれた。
え?ほんとに腹いせ…?
それだと、少々怖いんですけど…?
え…。一応振り向いとく?肩に手を置かれたし、気づいてない振りは無理そう…。
右肩の手の感触を頼りに左手だと推測して、右方向に振り向く。
そこには…
藍鉄色の透き通るような美しい髪と、
え?なんで?
ほんとになんで?
疑問に思ったが、目に見えて動揺するわけにも行かない。
僕は努めて平静を装った上でこう反応する。
「どうしたの?朝海さん。」
「黒川君にちょっと用があってね。私いつも、学校の最寄りからこっち方向にある駅を通る電車に乗ってるからこっち来ても帰れるんだよね。」
「へ、へぇ〜。で、用ってのは?」
「おやおや?私に興味なしかな?まぁ、そういう端的なのは好きだけどね。単刀直入に聞くよ。黒川君。LOINアドレスを交換しない?」
おっと……まさか朝海さんから言われるとは…朝海さんとは逆方向だから明日でいいかなと思ってたんだが…。
「一応、理由を聞いといてもいい?」
「おや…?クラスメイトとLOINを交換したり、友達になるのに理由が必要かな?まぁ、建前が聞きたいなら、文化祭実行委員をしてるからそれ関係の連絡とかをするときに、口頭だけじゃ緊急性とか即時性に欠ける。だからそれを補う用に、LOINを交換しようと思ってね。」
たしかに、僕は彼女とクラスメイトだった。
彼女はクラスの中でも目立っているけどあんまり関係なかったし、僕は、クラスにいるんだけど一歩引いて見てしまうところがあるからあまりクラスメイトという感じがしないんだよねぇ…。
実行委員決めの時は助けてもらったのに失礼なことだが…。
でもクラスメイトなら、友達になったり、LOINを交換したりするのも不自然じゃない。
それに紫陽祭実行委員という建前があるなら僕のような根暗陰キャが彼女とLOINを交換してもなんら問題はない。
そう結論付けたので、僕は背負っている鞄を片手だけ外して、スマホを取り出し、自分のQRコードを表示する。
「分かった。ならよろしくお願いしてもいいかな?朝海さん。」
「こちらからお願いし始めたんだ。モチロンだよ黒川君。」
ピロン。
スマホの画面には『ソラ』の二文字が追加されていた。
「というか、黒川君。朝海さんなんて他人行儀な呼び方やめてよ。一応友達になったんだから、朝海か天で読んでよ。」
「わかったよ。朝海。」
「ふむ、流石に初めはそちらですか…。まぁ、一回目から下の名前はハードル高いよねぇ。」
「うん…流石にね…。というかそれなら僕のことも黒川か、凪って呼んでよ。」
「ん、分かった。凪。」
「初めからそちらですか…。」
「ん?照れてんのか?ん?」
コレが陽キャのノリってやつか…
実行委員決めのやつで感謝してたけどうざいから止めよっかな…。
でも自分でも顔が赤くなって照れている自覚はあるんだけどね…。
「あ、そうだ…さっきはなんで理由聞いたの?」
急に彼女がそう聞いてきた。
心底わかってなさそうな顔で。
「そんなの…もしも、なんの理由や建前もなく、君みたいなスクールカーストトップの人とLOIN交換とかをしてたら、こんな根暗で陰キャで弱そうな僕だ。スクールカーストでのランクは最底辺の僕は良くて嫉妬の視線の的か、悪ければイジメの格好の標的だ…。流石の僕もそんな中で少なくとも3年間過ごすのは嫌だよ…。だからかな。」
僕はこう返す。
でも彼女もなんとなく察してたんじゃないかな…。
『建前が必要なら』って言ったし…。
「やっぱりそれが理由だったか…。」
ほらね。
でもそれを聞いて彼女は、朝海天は悲しそうな、悔しそうな顔をした。
「なんとなく察しては居たけど…。実行委員決めの時と言い、今と言い、凪は随分、自己評価というか自己肯定感が低いんだね。私の周りには少ないタイプだよ。」
「だろうね。」
「その自己肯定感の低さには、なにか原因があるのかもしれないし、私は、凪の何を知ってるわけでもない。」
彼女はここで一度言葉を切って、息を一度吸ってからこう続けた。
「でもね…私は…人っていうのは一人一人が、何兆分の一という確率をくぐり抜けで産まれてきている存在なんだと思うよ。だから君という存在も何兆分の一という存在であり、そんな存在だからこそ人というのは一人ひとりが誰かにとってかけがえのない大切な存在で、かけがえのない才能を持った存在なんだと思うよ。」
そしてまた、一呼吸。
「だから、あまり自分を卑下しないで欲しいな。これは命令でも、お願いでもない。ただ、私から凪へ、そして、自分にはなにもないと感じているすべての人への希望。だから聞いてくれなくてもいい。これを聞いて凪がどう思うかは凪次第。でもこの言葉が、いつか、凪の心に響いて、凪が変わってくれることを祈るよ。」
そう言って彼女は目を閉じて、次に目を開けると同時に満面の笑みを浮かべた。
その笑顔はとても美しかった。
僕は息を呑んだ。
「言いたいことは、それだけだから。じゃ、また明日の学校でね。」
そう言って彼女は学校の最寄りとは違う、僕の家方面にある駅に走って行ってしまった。
そこに残された僕は、少しの間、その場で呆然と立っていた。
彼女の言葉は、とても深く、そして綺麗に僕の心に刺さった。
僕の心を抉った。
まるで、僕の考え方を、人生観を変えてくれた
そんなことを考えながら…
いや、彼女の言った言葉の意味も考えながら、僕は今日も一人で帰路に就いた。
でも、なんだかいつもより、孤独を強く感じた。
それだけがいつもと違うことだった。
クラスの負けヒロインは僕の友達のようです シンエイ @half_score-
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