第3話 クラスのメシア、朝海さん。
ダァァァン!!!!
その音に、教室中が凍り付いた。
いつも温厚な天使さんが今まで見たことないような顔で怒っている。
激怒という顔だ。
「ねぇ、ねぇ。
その言葉でくじ引きに反対していた女子生徒のほとんどが俯く。
彼女はとても期待していたのだろう。だからこそ、その落差の分、ここまでブチギレてしまったのだろう。
そして言葉の節々から、その期待と落胆が伝わってくる。
クラスの
こういったものはとても人の心に刺さる。
裏切った対象が、とてもかわいい女の子なだけにひとしおだ。
だが、罪悪感を抱いたとしても、その感情に素直に従うかは別だ。
特に僕達は、多感な時期の高校一年生。反抗期真っ盛りな人もいるだろう。
そんな人が罪悪感というものに素直に向き合えはしないだろう。
反抗期になると、謝るというのが難しくなるのと似ているだろうか。
そしてその対象が、意識している対象であればあるほど素直には成れ無いものだ。
また、それにプラスして、自分のことを責められた時も、責められたことを素直に受け入れられない。
それが反抗期というものだ。
人間とは世知辛いものである。
まぁ、つまり………
「どういうことよあんた!?可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ!?」
こうなるわけだ。
「黒川のこと何も知らないって言ってるけどね、あんたも大概、黒川のことちゃんと知らないでしょうが!私も知らないのは認めるけどね、あいつが全く反論してこないのがコミュ障こじらせてる証拠でしょうが!」
そう言えばそんなことも言っていたな…。
もしかしてなんか知ってるのかもって思ったけど、まぁそんなわけないか。
特に彼女と関係ないしね。
でも確かに一切反論しないのはコミュ障と言われてもおかしくないかもな…。
僕は、根暗な陰キャなことには変わらないが、コミュ障では無い…はずだ!
だから、ちょっとは反論しとくか…。
「あn………」
「確かに私も黒川君のことはちゃんと知らない。でもね、私は固定観念持って、それで人を貶めたり、罵ったりするのって絶対だめだと思うんだよ。それを公共の場でやったらそれは名誉棄損を取られる場合もあるんだよ。」
うん…。天使さんの言葉にかき消されましたね…。はい………。
まぁ、いいや。
「それにね、そうやって固定観念持って人を罵ったり、貶したり、嘲ったりするのって、SNSの誹謗中傷とやってることほぼ変わんないんだよ。誹謗中傷も同じように人の意見から、本人のこと何も知らないのに固定観念持って、罵る。ほらやってる事同じでしょ?」
「………っ!!そんなの」
「拡大解釈したにすぎないって?でも、逆に言えば、今の現状が少しでもひどくなれば、さっき言った現象が起こったかもしれないってことだよね。もし、さっきのが原因で黒川君が思いつめちゃって不登校とかになってたらどうするの?公長さんは責任とれるの?」
「………っっ!!!」
天使さんはクラスのために怒っているのだろう。なんなら公長さんの為なのかもしれない。
でもその怒り方から少し、僕のために怒っているように聞こえてしまう。勘違いしてしまう。
まぁ、そんなことあるはずがないけど。
てかそろそろ抑えないとヤバいんじゃないのかこれ…。ホントに収集つかなくなるぞ…。
天使さんは怒りで我を忘れてるに近いし、公長さん(さっき知った)はここまで来て、引くに引けない状態だし…。
先生や男子は普段温厚な天使さんの変貌ぶりにちょっと復活してたのがまた硬直している。
他の女子は両方に少し恐怖を抱いているのか、どちら側につくべきか迷っているのかわからないが、口論している二人を見ながら、視線を交互に揺らしつつ、おろおろしている。
てか、当事者僕なんだけどな~。まぁ、何でもいいんだけど…。
まさか被害者というか、当事者というかの僕が喋らせてももらえないとは…。
まぁ、僕がこうして被害者らしくないぐらいに、諦観というか、達観というか、俯瞰しているのがその主な原因の一つなのかも知れないが…。
そんなカオスな、教室と、その対極に位置するぐらいに静かで穏やかな心境の僕。
このクラスの中に、ここまで穏やかな心境の人間は僕ぐらいしかいないんじゃなかろ………いや、いた。もう一人。
その人は、前の方の自分の席からやはり美しい所作で起立し、そのまま、天使さんと公長さんが口論している教室の後方に徐に歩くと、そのまま、天使さんの後ろに回って………
「大体さ、この際だからはっきり言わせて貰うk!もがもががが!もがもががががが!もがが!」
「はいはいそこまで。一回落ち着こうねぇ~」
「もがが!もがもがもがががが!もががもがもがもがががが!?(天!何でここに!というかあっちの味方すんの!?)」
「はいはい、何言ってんのかわかんないけど、なんとなく何を言いたいのかは目から分かるよ。公長さんの味方すんのか!って言いたいんでしょ?違うわバカ姫菜!………姫菜、今の周りの状況見てみ。」
「………っ!?………」
朝海さんにそう言われて少し周りを見てみたのだろう。
そして今の混沌とした教室の現状を見たのだろう。
今の天使さんは目をウルウルとさせて、捨てられた子犬のような感じだ。
少し冷静になったのだろうか。
「そんなウルウルさせても、可愛く見せても駄~目。姫菜のそんな顔私は見慣れてるの。姫菜のやったことは間違ってないと思う。確かにああやって、罵ったり貶したりするのはよくないこと。それは確か。でも、姫菜が、黒川君の意思を無視してキレ散らかすのは違う。黒川君何か喋ろうとしてたけど姫菜の声にかき消されてたよ。」
「ふにゅ………。」
「後、姫菜は自分の影響力をもう少し考えるべきよ。姫菜が怒ったことで確かにクラスの全員がさっきの問題について考えるきっかけにはなったと思う。でも姫菜の影響力だとその影響が大きすぎる。だって今の教室全体、姫菜が怒ってることに委縮してたり、動揺したり…。確かに貶したり、罵るという行為は消えたけど、さっき以上にクラスは混沌としてる。姫菜の行為も公長さんのと同じようにクラスの輪を乱してる。」
「はう………!」
「あとね、皆と仲良くしたいっていうなら、公長さんとも仲良くする必要もあろ訳でしょ。こんな突っかかり方して、喧嘩みたいな口論したら、もっと蟠りができて亀裂が大きくなって、両方が気まずくなって、ギクシャクして、余計にクラスの足引っ張ることになってしまうでしょ。」
「ひぐぅ………。」
「さぁ、落ち着いて、自分が何をしたのか、どれくらい迷惑をかけたのか分かったら、謝る、反省すること。これ大事だからね。」
「はい………。公長さん。責め立ててしまってごめんなさい。黒川君も、君の意向を全く聞かずに勝手に口を出してしまってごめんなさい。反論しなかったのにも、何か理由があったことかもしれなかったのに…。クラスのみんなもごめんなさい。これから一致団結しようって時にこんなことして、クラスの輪を乱してしまってごめんなさい。」
こういうところで素直に謝れるところ。そういうのも彼女が好かれる一端なのだろうか。
「僕は別にいいよ。コミュ障かどうかは置いておいて、根暗で陰キャなことは的を射ていると思うし、反論できない点もあって反論できなかったから。それにあんまりクラスの雰囲気悪くしたくなかったから…。」
「ふぎゅぅ………。」
「あぁ、天使さんを責めてるわけじゃなくて、僕の意思というか意向というかを話しただけだから。ほ、ほら、意向も聞かず~とか言ってたから、話しとこうと思って。」
「ん………。ふふっ。ありがとう。こうやって話してみると黒川君全然コミュ障じゃないね。これなら、実行委員も安心して?安心できるのかな…?まぁでも、人並みには安心して任せられるな~」
「そこは、安心して任せられると言い切ってほしかったというのが本音なのだが。」
「「私たちもごめんなさい。天使さ…「待って、言う人が違うでしょ。」黒川君。君のこと何にも知らないのに罵ってしまって………。」」
「いいよ。さっきも言ったけど、間違ってない点もあったから………。」
天使さんの行動が気まずい雰囲気だった教室を少し弛緩させた。
やはり、クラスの
その影響力は凄まじいというか、計り知れない。
朝海さんの言った通りなのだろう。
「さ、これでこの話はおしまい。「ちょっとまっ…」公長さん。私はね今回のことは姫菜に非のある部分もあったのは認めるけど、あなたにも非があったからね。今回の場合、無責任に罵るという行為に出たのが例えあなたに何か思惑があったとしても、特にあなたに迷惑や危害を加えてない黒川君を対象にしたのがよくない。「それはっ!」未来のことは分からない。たとえ黒川君があなたの言うような人だったとしても、それが文化祭実行委員の時に活躍しないというのは分からない。だから、黒川君には謝るべきだ。」
「っっっ!!ごめんn………」
「相手が違うでしょ。」
「黒川…すまなかった………。」
「良いよ別に、さっきから何回か言ってるけど、的を射ている部分もあったからね。」
「はぁ、そんな屈辱的だ!みたいな顔で視線を私たちに向けながら謝ってもねぇ」
そう言って、公長さんを注意しつつ、続ける。
「あなたが私や、姫菜を目の敵にしている理由は分かっているつもりだよ。でもその感情は私たち自身に直接向けるべきだと私は思う。直接向かってくるなら、私も姫菜も真っ向から引き受けるつもりだよ。ねっ、姫菜!」
「えっ!?う、うん!!」
満面の笑みで答える天使さん、ここは満面の笑みで肯定するところなのか………。
「そこって、満面の笑みで肯定するとこ~?」
朝海さんとは気が合いそうだ。
「まぁ、いいや。ここまで拗れちゃったら、くじびきで決めても結局は不満出そうだし、クラスを一致団結させて文化祭を成功させるという目的には添えないだろうね。だから、仲裁案としてだけど、今回迷惑かけたお詫びというかで、姫菜にやらせるのが正しいのだろうけど、姫菜は学級委員だから、私がやることにするよ。先生!それでどうですか?」
「ん~?私はお前らがそれでいいなら構わんが………。まぁ、結局やりたい人がやるならそれがいい。朝海がやりたいのならそれでいいぞ。お前なら冷静だし、クラスのみんなから人気あるし、リーダーシップあるし、部活にも入ってないし、安心して任せられるがな。」
「みんなもそれでいい?………いいみたいだね。なら私がやるってことで…。公長さんもそれでいいでしょ?あなたの要望通り、あなたは実行委員にならなかったし、くじびきでも決まらなかったからね。」
「グッ………。………いいよ、それで。」
「姫菜もいいよね?」
「天なら安心して任せられるからね、私は全然かまわない、むしろ大歓迎だよ。何かあったら頼ってね、天。」
「うん、勿論、気兼ねなくこき使わせてもらうよ。」
「うぎっ!お手柔らかにお願いします…。黒川君も何かあったら、頼ってね。今回の負い目も有るしさ………。」
「う、うん。」
キーンコーンカーンコーン
このタイミングでチャイムが鳴り響く。
「時間もあれだし、この話はこれでおしまい。ね?先生。」
「あぁ、じゃあこれで、今日の授業は全部終わりだからいくつか連絡したらかいさんでいいぞ~。………」
先生からの連絡を大分聞き流しつつ、さっきのことについて考える。
なぜ、朝海さんが実行委員を引き受けたのか。
確かに、あの状態ならあれが自然だったのかもしれない。
でもそのまま、くじ引きしてもよかったのではないだろうか。
クラスのほとんどの人は反省していたし…。
何か、理由があるのかと頭を回転させるが、まったくその理由が思いつかない。
ただ一つだけ言えるのは………
朝海さんは、クラス崩壊の危機を救った
だって、仲裁に入ってからクラスのほぼ全員と、さらに冨士華先生も朝海さんに感謝というか、崇拝に近い感じの視線を見せていたのだから。
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