ボツにしたほうの『雪女の話』

 どうして今日に限っていつもと違う道を通ってしまったのだろう、と後悔するがもう遅い。見てしまったのだ。クラスメイト以上友だち未満という微妙な相手の涙を。


 氷見君は、冷静沈着が服を着て歩いているような人だった。凪いだ水面を思わせる面持ちで何事にも動じず、歓喜も憤怒も悲哀も驚愕も、最初から持ち合わせていない風に見えた。そんな人が整った顔を盛大に歪め、ボロボロと溢れる涙を止められずにいる。


 その凛とした外見と雰囲気に気圧されて、みんな遠巻きに眺めてばかりだったから、こんな激情を内に秘めていたなんて誰一人として知らなかっただろう。僕だって、そのうちの一人だ。


 心の柔らかいところに意図せず触れてしまったような気まずさと、水鏡に波紋が広がる光景を見た物珍しさで動けずにいた。あるいは、認めたくはないけれど、芸術品じみた慟哭に見惚れていたのかもしれない。悔しいことに眉目秀麗だと泣き顔すら絵になる。何が彼をそうさせるのか、内側で燻っている感情を知りたいと思った。


「ねぇ、何で泣いてるの」


 赤く充血してもなお美しい目が僕を見つめる。もしかしたら、真正面から顔を見るのすら初めてかもしれない。


「……お前になんかわかるはずねえよ」


 絞り出すような



 ※ここまで書いてボツにした

 ※ボツにしてないほうの『雪女の話』は、この短編集の2話目↓

 人外と人間の(非)日常 /現代ファンタジー

 https://kakuyomu.jp/works/16817139559028431735

 全然原形が残っていない


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