紅茶の色がでるまで

 

 家から歩いて数分で、川につく。


 

 川沿いの家は見ていて面白い。

 猫がごろんと寝ていたり、庭から川へ行けるように、三段くらいの小さな階段を、どの家もつけている。それが、何故だか面白かった。



 近くのベンチに座って、ミカさんはぼーっとしてみた。

 ランニングする人。

 なびく洗濯物。

 あたたかい日差し。

 さやさや奏でる葉。

 水色の、名も知らぬ小さな花。


 なにもしない。

 なにも考えない。




 ふと、中学生の頃読んだ聖書をミカさんは思い出した。

 ミッション系の学校に通っていたけれど、特にきちんと読んだこともなかった聖書。

 けれど、聖書のいたるところに「ゆるしなさい」という言葉があったのを記憶している。



 悪い行いをした人を、ゆるす。

 ケンカした相手を、ゆるす。



「ゆるす」って、そういう使いかたの事だと思っていた。

 けれど、違うかもしれない。




「~しなければならない」とか「~しないといけない」とか。


 自分でカチカチに決めた考え方を、自分中心の考え方に対して「ゆるす」ということ……なのかもしれない。




 自分自身を「ゆるす」

 あの頃は、時間も気持ちも、受け止め方も柔軟だったから、気がつかなかった。

 今はなんとなく、わかった気がする。




「私たちは、もっと自分をゆるすべきだ」


 なんてことを言ってみる。



「やめてみる」という選択も、受け入れるべきなのだ。

 少なくとも、ミカさんはそう考えたら楽になった。





 ──さて、家に帰ってお湯を沸かそう。




 自分のために、ポットでお湯を。

 紅茶をいれよう。

 ティーパックの紅茶もいいけれど、

 今日は茶葉から。



 ぽこぽこお湯が沸くのを待って、

 紅茶のあかい色が広がっていくのを、

 じっくり待つ。



 その時間が、必要だったんだ。

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