チベスナ
遺憾である。
ちょうど顔にあたる高さで、ワラワラと集会を開いている羽虫たちは、一体どういうつもりなんでしょう?
ミカさんは、大変ぷりぷりしている。
なんのためにあの高さでワラワラしているのか。
ミカさんの地域では、その虫のことを「頭虫」と呼んでいる。その正体は、ユスリカいう虫らしい。
ちなみにではあるが、九州出身の先輩はユスリカのことを「脳食い虫」と呼んでいた。なんという危険生物……。
ユスリカはメスを見つけるために、高い位置でワラワラとオス達が集まっているだけのことで、特に人間に害はないそうだ。
だが、しかし。
ミカさんはご立腹である。
なぜなら、ミカさんは自転車でユスリカの群れに突っ込んでしまったのである。それも、坂道をピューッと気持ちよく下った時である。
一匹と衝突するという大事故。
ぶつかったところは運が悪く、目である。白目の部分!!
めちゃくちゃ痛い。
目に異物感を感じて、気持ちが悪い。
目を洗っても、涙を流しても、ユスリカと衝突した違和感が拭えず、痛さも増していく。
ミカさんは不安になり、SNSになぜだか助けを求めた。衝撃的なコメントが返ってきた。
『目の裏側にいってしまったんじゃない?』
──目の……裏側……だと?
ミカさんは想像する。
目の裏側の空間で、ブンブン飛んでいるユスリカ。その後、出られなかったらどうなるのだろう?
──私の栄養になるの?
なんだか色々とショックすぎる!
ミカさんは、何度か目を洗った。ジャンプもしてみた。
──大丈夫。たぶん、目の裏側にはいってないだろう!
と、思うことにした。
それ以降、ミカさんは坂道を自転車でピューっと下る時、チベットスナギツネのように目を細めているのであった。
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