境界をひく

 ミカさんは「境界」という言葉が大好きである。


 大好きすぎて卒業論文にしてしまったほど。境界というのは、あちら側とこちら側をわけるところだ。


 特に日本の歴史を紐解いていくと面白い。道祖神の存在や芸能、それは巫女へとさかのぼり、日本書紀へと……。



 話しが長くなりそうなので、自制しなければならない。とにかく、ミカさんにとって「境界」は不思議であり、物語が生まれる場所であり、惹かれる存在であるのだ。





 話しが変わるが、ミカさんは蜘蛛が苦手である。


 幼い頃は、虫などの類いは苦手どころか可愛らしい存在で、アリやダンゴムシを飼ったりしていたこともある。



 けれどもいつしか、彼らは苦手な存在へと変わってしまった。なぜか。



 巨大蜘蛛のせいである。


 読者の皆さまは、カニほどの大きさの蜘蛛を見たことがあるだろうか?



 ミカさんは複数回ある。



 あのたくさんある長い足をガタガタ音を立てながら、こちらへ向かってくる。

 それが越前蟹ならば良かったが、蜘蛛であった。



 蜘蛛のあの長くて曲がった足。

 小さな毛が生えた足。


 それが恐ろしくて、虫を見ても蜘蛛を連想してしまうようになってしまった。歳を重ねるごとに、虫も蜘蛛も受け入れられなくなってしまった。






 春が終わりにさしかかったころ。

 そう、やつらが現れる時期だ。


 ミカさんは対策を練ることにした。

 新しいお家は、小さな蜘蛛がベランダから家の中に入ってきてしまう。


 小さくても蜘蛛は、蜘蛛である。

 なんと恐ろしいことか!

 だが、無駄な殺生はしたくない。



 ミカさんは境界をひくことにした。




 蜘蛛避けである。

 近ごろの薬局には、大変便利なものが売っているものだ。家の中に入りこんでしまう虫たちから、家をバリアでおおうというスプレーだ。



 なんと平和的なスプレーなのか。



 たしかに、蜘蛛は大の苦手だが「抹殺してやるー!」という気にはならない。こちらとしては、家から出て行ってくれれば良いのである。




 こちらは私が住む世界ですので、なるべく入らないでください。

 あなた方の住む世界は、あちら側です。

 私もあなた方の世界に入る時は、無闇に生活を荒らしませんので。



 という気持ちをこめて、家の中をスプレーする。特に虫たちが入ってきてしまうベランダの入口は念入りに。




 これでお互い、驚かずに生活が出来そうです。

 ミカさんは素晴らしいスプレーを作った会社に感謝の念を送った。



 平和的解決策。素晴らしい!



 ちょうどその時、ケイさんが帰ってきた。

 ミカさんはスプレーを片手に、境界をひいて、虫たちと協定を結んだのだとうれしそうに説明をした。



「ねえねえ、ミカさん」

「なんだい、夫よ」

「これ、殺虫剤だよ」



              ──終。

 













※蜘蛛避けはどうしたらいいのですか?





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