芸術点の高い◯◯
その駅には女子校が集まっていた。
色とりどりの制服。セーラー服、ブレザー、チェックのスカート、グレーのスカート。
ローファーの音と女の子たちの声で、朝の駅はたいそう華やかで、にぎやかだ。
女の子が集まるところに、変態も集まる。
それは日常茶飯事のことで、卑劣な事件以外、彼女たちは「ああ変な人がいる」と大あくびをしながら通り過ぎていくもののような存在であった。
「そうそう、この間さ」
満員電車に揺られながら、他校の制服を着た少女はなにか面白いことを思い出して、肩をふるわせて笑った。
「やばいの! 聞いて!」
少女のハイテンションに、ミカさんとナオさんは顔を見合わせた。ナオさんは、ミカさんと同じ学校の友達である。知り合ったばかりの他校の友達エミさんの話しに、ミカさんたちは耳を傾けた。
「うちの学校、通学路が坂道なのね。坂登ってたらさ、上の方からハゲたおっさんがやって来たの」
「ハゲ」
ナオさんはなぜだかハゲに反応した。
「そのおっさんがね、うちらとおんなじ制服着てるの!」
変態の波動を感じ、ミカさんは少しだけワクワクする。けれども、エミさんの話はかなり刺激的だった。
ミカさんは健全な読者のためにも、オブラートにやさしく包みこんで話そうと思う。
エミさんと同じセーラー服を着た、ハゲたおじさまは坂の上から堂々とおりてくる。
登校せねばならない女子校生たちは、不気味に思いつつも、避けては通れないハゲたおじさまと対峙する。
「キャー!」と案の定、列の前方から悲鳴があがった。
エミさんは首を大きく動かして、前方にいるおじさまの姿を確認しようと目を凝らした。
すると、不審な点を発見した。
おじさまの左手、中指に凧糸のようなものがくくってあった。それは、だらりと中指から垂れさがり、おじさまのスカートの中に繋がっているように見えた。
やがて、エミさんの近くにおじさまがやって来た。
「おはよう!」
おじさまがにこやかに挨拶を交わす。
その時、おじさまはエミさんに向かって左手を、まるで皇族のようにあげた。
おじさまの左手中指に結ばれた凧糸がピンっと緊張感をもって引き上げられ、どういった仕組みか、スカートがヒラリと持ち上げられ、あわや大惨事!!
凧糸はおじさまの下半身と結びつけられており、ぞうさんの鼻がパオーンと挨拶をしたのだ、とエミさんは笑いながら言った。
「あれは、芸術点の高い変態だったわー」
しみじみと語るエミさんにミカさんは苦笑いする。
ハゲたおじさんも、そんなことするためだけにとても早起きしたのだなと思うと、なんだか哀れな人である。
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