SHIRAGA
鏡を見て、ミカさんは不思議に思った。
──あれ? こんなところに、ハイライトが?
人差し指と親指でつまんでみて、気がついた。
──白髪!!!!
それも、二本も。
年明けに、インフルエンザと急性胃腸炎と脱水症状を連発したせいか。それとも、ただ年齢のせいか。
とにかくミカさんは興奮して、その二本の白髪をはさみでちょんと切った。
机の上に転がした白髪に、ミカさんは目をみはった。
──なんて、うつくしいのだろう!
透明で骨みたい。
朝の空に忘れられた、月みたい。
角度を変えて見ると、白髪はキラキラと光を吸収して、まるで宝石のよう。
──おお、なんとうつくしいのじゃ。
先ほどまで自分にくっついていたものとは思えない。
ミカさんは初めての白髪に、うきうきした。この大発見を、誰かに伝えなければならない!
ミカさんは、二本の白髪を聖火ランナーのように抱え上げて、旦那さんの元へ走った。
「見て! 白髪!」
「うん?」
突然、目の前に突きつけられた白髪に焦点をあわせようと旦那さんのケイさんは、目を細めた。
「白髪いる?」
「いらない」
──なぜ?
「いる?」
「いらない」
「どうして」
「えっ」
ケイさんは、目をまんまるにする。
「こんなに、きれいなのに?」
「うん、いらない」
「妻の白髪ぞ?」
「妻の白髪でも、いらない」
──なんで!!
ミカさんは「きーっ」と地団駄を踏む。
(冷静に考えれば、他人の髪の毛なんぞいらないだろう)
ケイさんにフラれてしまったので、しぶしぶ息子のところへ行く。息子のユウくんは、テレビに夢中だ。
「ねぇ、ユウ見て。白髪だよ!」
「うん」
ユウくんはテレビに夢中である。
「いる?」
「うん、いるー!」
予想外の答えが帰ってきて、ミカさんは驚く。
「え? い、いるの?」
「うん!」
ユウくんは嬉しそうに、白髪を受けとった。
それをテレビに向かって、ポーイ! と投げつけた。
──なんてことを!!
ユウくんはテレビに夢中である。
テレビに映る、悪者にむかってママの白髪を投げつけた。
どこかへいってしまった白髪を思いながら、ミカさんは悲しみあふれる目でテレビを見つめた。
ちょうど悪者が、空へ飛ばされてキラリと光ったところだった。
きっと魔除けくらいにはなったと思う。
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