頭を何度も何度も突き刺すその光は、消えようとしない。
泡沫 希生
幾度目の。
見下すかのような、真夏の太陽を照り返すガラスのごとくギラついた笑顔が、頭を何度も何度も突き刺す。消えることなくわたしの脳に焦げ跡を残す。考えるたびに傷が増えていく。
幾度目の、
「消えたい」
と声が出て。あ、携帯鳴ってるわ。花に埋もれて取れない。鳴ってた多分。雨の音もした、していると思う。ポツポツ、ザーザー、しとしと。聞いてるうちに経っていた。
ああ、ポツポツしてるのはこれか。
掴めたはずだった。でも、それは輝ける陽に奪われたのさ。影は影らしくしていなさいと、偉そうに偉そうに、あ、実際偉いのか、よく知らん。光曰く、それはわたしには
わたしが丹念に作り上げたのに、取り上げられて。それを手にした太陽はさらに輝きましたとさ。めでたしめでたし。となるわけない。わたしが救われない。終わりよければ全て良し。見方変えれば、終わり悪ければ全て悪し。現実は現実らしく醜談を語れ。
あの時までは、確かに手元にあったはずなんだけどなあ。わたしが今掴んだのは携帯。着信あったはずなので。見れば見知らぬ番号、迷惑電話であろう、わたしの愚痴を聞いてくださるのかい? 素敵なセールス電話もあるものだ。
出ないのかよ、出ろよ。普通に間違えたのかよ。携帯を放って、ついでに窓を見る。そこそこ降ってますねー。バタン。体勢戻る。
どうしようもなく考えるのが人間である。そういえば、誰かがそんなことを言ってらっしゃった。
何より、明日あの顔を見るのが嫌だ。飛ばされてくれねぇかな。無いな、首が飛ぶとしたらこっちだわ。笑。笑えないけど。
信じることは悪いことなのかな? 前に聞かれたことがある。わたしが知りたい。子供よ、大人は大きい人なだけで、何も知らない。今のわたしは悪いと言うだろうし、明日には良いことだと答えるかもしれないし、あの時のわたしはスーパーの特売で忙しかったので答えずに通り過ぎた。何であんなところでこんな哲学的なことを聞いてきたのだろう。あれは夢か。いや、あの子には会った気がする。場所が違うか、内容が違うか。そんなところか。もしくはその質問を口にしたの、過去のわたしだったかもしれない。
重くのしかかる布団を掴んで飛ばそうとすること数度。やる気ないので上手くいかない。
幾度目の、
「消えたい」
と声が出て。お腹が鳴った。そろそろ何か食わねばならないのだろう。でも動けない。このまま枯れ果てようか。干からびるのと枯れ果てるのだったら、なんとなく後者の方が良い気がする。頭は回っているのに体はあまり動かない。携帯を掴むのでせいいっぱい。
花に埋もれた携帯を撫でながら、あの笑顔に再び向き合う。どうしてあんな顔ができるのか。太陽もときには残酷な顔を見せるものだ。思い返すたびにわたしはどんどん干からびていく。いや枯れ果てるんだっけ? 終わりそうにない。空腹がわたしを責め立てる。終わらないのか、終わらないよ。
消えたい。
無意識の言葉を、雷鳴の音がかき消した。雷光で貫かれて頭の中の残光がほんの一瞬薄れて。でも消えはしなくて。ふと気がつけば、あの笑顔は浮かび上がる。頭に焼き付いたそれはコンロについた汚れ。こびりついて取れない。
雨の音はまだしてる、携帯はあれから鳴っていない気がする。もうよくわからなくて。目を閉じる。残光と見つめ合う。消えはしない光に、わたしはまだまだ付き合うのだ。
とめどなく思考は回り、フラッシュバックが続く。消したい、消えたい。似てるけど遠い。また一つ笑顔が頭を突き刺し、焦げ跡が増えていく。無数に重なるそれは、きっと、あの時何も言い返せなかった罰であろう。
見下すかのような、真夏の太陽を照り返すガラスのごとくギラついた笑顔が、頭を何度も何度も突き刺す。消えることなくわたしの脳に焦げ跡を残す。考えるたびに傷が増えていく。
幾度目の、
「消えたい」
と声が出て。
頭を何度も何度も突き刺すその光は、消えようとしない。 泡沫 希生 @uta-hope
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