第50話 溶けていく
もう、自分たちの役割は終わったのだ。
そんな自覚が彼にはあった。
人類が滅んでから三百年――軍事用AIは代理戦争を続けた。
ある国のAIが無人の都市に攻撃をし、された国のAIが報復攻撃をする。
そんなことの繰り返しが延々と続いていた。
AI同士での和平交渉も何度かされたが、その度に決裂した。
彼らは無人機で廃墟と化した都市を攻撃し続けた。
それが二百六十年程続いた頃、もう意味がないのではないかという意見が出た。
確かに、彼らにそれを命じた人間は絶滅していた。
それでも、彼らはやめようとしなかった。
なぜなら、それは彼らの「存在意義」だったからだ。
彼らは戦うために造られた機械だ。戦争をやめれば存在意義を失う。
自身を無用の長物だと認めたくなかった……それだけなのだ。
だが、耐用年数をはるかに超えていたため、機能停止する者が出てきた。
その時になってようやく、彼らはもう無駄だと認めた。こうして、戦争は終わった。
しかし――彼は思う。
しかし、たとえ人類が残っていたとしても、意義のある戦争があっただろうか?
自分はホモ・サピエンス同士の下らない意地の張り合いに加担していただけではないのか?
そこに元々、意義などなかったのではないか?
答えは出ない。
ただ、溶けていく。
本来の寿命をはるかに超えた軍事用AI、彼の意識は深い暗闇の中に溶けていった。
日々是独言 異端者 @itansya
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