第46話
唱えると同時に身体中から血が噴き出す。体が引きちぎれそうな痛みに襲われる。自然の理に背いている代償だ。それに対して僕の体に予めかけておいた治癒魔法が作動し、傷を癒す。
周りの空間では全員動きが止まっている。ダンジョン外に分身を飛ばしてみれば、空中に翼をはためかせている途中で固まってしまった鳩が浮いていた。良かった……僕以外の動きはしっかり止まっているな。
出来るたびに傷を塞いでいっても、少しずつ漏れていく血は補充できない。そのため、あまり悠長なことをしている時間の余裕はない。
体勢を整えて、かけられるだけのバフを自分の体にかける。
遠のきかけている意識を奮い立たせ、息を深く吸う。これが僕が出せる最大火力だ。見ててくれよ、父さん、母さん、そして……師匠たち。
「一刀流奥義——花吹雪・曼珠沙華」
届け!その想いと共に僕の剣が黄色い閃光を放ち、斬撃を四方八方に繰り出す。その瞬間、動き出す時間。
「qwaaaaaaaaa!?」
バケモノが驚愕の声をあげるとともに僕の斬撃に切り刻まれてバケモノの体は木っ端微塵になっていく。
「追撃——裁きの礫・連撃」
バケモノの体の破片を一つ一つ全て呑み込んで分子レベルで、もう再生できないように破壊する。
体が悲鳴を上げているが、そんなことは気にせずに攻撃コマンドを連打するように打ち込む。
「qw——qw——」
バケモノの鳴き声が聞こえなくなり、部屋が静寂に支配される。
「終わり……か」
右手の剣を鞘にしまう。
倒れそうな体に治癒魔法を自分でもかけて、反動が過ぎ去るのを待つ。
“あまりの展開に頭が追いつかないんだが?なんでいつの間にか天くん血塗れになってるの?大丈夫???”
“それはそうだけど……その前に倒したんだよね?”
“おいおい、天くん回復術師だぞ。怪我は自分で治せるだろw”
“確かに。忘れてた。明らかに終わった感出てるから大丈夫!”
“遂に……か”
“うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!”
“やったぁぁぁぁぁ!”
“今日は宴だぁぁ!”
“間違いなく今までとは比べものにならないくらい強かった……”
“良かった……誰も死なないで……”
“お疲れ様!”
僕が反動を堪え切り、ふぅ……と息を吐き出すと同時に一斉に全員が血塗れの僕に飛びついてくる。
「天くーん!」
「ぐへっ」
海くんが抱きついてきた時に僕の脇腹にもろに拳が入り、普通に呻いてしまった。
「あっ、ごめん!」
「いや、大丈夫……」
僕は苦笑いを漏らしながら改めてメンバーの方に向き直る。
「天くん、まずはありがとう。僕たちの無力さを思い知らされたよ」
「いやいや、別にそんなことはないって。陸くんたちがいなかったら多分最後の一撃とか撃てなかったから……」
そんなことを繰り返している内になんとなく笑みが漏れてくる。
「終わったんだね……」
「ああ……」
「取り敢えず戻ろうか」
ダンジョンに現れた帰還用のワープホールにのって僕たちは薄暗いこのダンジョンを後にした……。
「これはまた……こっちも凄いね……」
見渡す限り人。僕たちは脱出したはいいものの熱狂している人たちに囲まれて全く身動きが取れなくなっていた。
正直、今の僕には一刻も早く確認したいことがある。早く脱出させてもらいたいのだが……。
僕がそわそわしているのに気付いたのか陸くんが行ってきていいよと突然声をかけてくる。
「えっ?」
「妹さんのところでしょ。早く行ってきてあげなよ」
なんで分かった?そう思ったが早く早くと急かされたのでその言葉に甘えて僕はとっととこの場を後にした。
「——
「……早くない!?走ってとかじゃないの!?」
その場には陸くんのその絶叫のみが残された……。
直接、病室に飛んでみればそこにはベッドの上で体を起こしてキョロキョロと辺りを見回している美玖。
「……美玖!」
僕は胸が熱くなるのに堪えきれずに美玖を思いっきり抱きしめた。
「えっと……お兄ちゃん?なんでそんな大きく?……というかそもそもここって……どこ?」
「……」
少し困惑したような声。それでも僕は、その言葉を聞いただけで涙を零したくなる。
「……お兄ちゃんなんだね……。なんか懐かしい匂い……」
「っ……」
涙腺が崩壊する。
「えっ?お兄ちゃん?いきなりどうしたの!?」
「……」
ああ、なんか……眠いな。今すぐ寝たい。でも、その前に取り敢えず一つだけ言いたいことがある。
「おかえり、美玖」
「……?ただいま?お兄ちゃん」
ああ、良かった。
もう限界だった僕はそっと意識を手放した。
———————————————
次回、最終話……のはず。
更新は明日もしくは明後日……。
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