第44話

「天くん、そっち防ぐのお願い。海くん、空くん、今撃ち込んでいいよ!」

「オーケイ」


 陸くんの合図とともに撃ち込まれる魔法。あの時練習した連携は無駄なことじゃなかったな……なんて思いながら改めて戦況を見直す。


 バケモノの基本スタンスとしては一番大きなバケモノが後ろであの気色悪い奇声を上げて、子どもたちを動かしている。簡単に言いかえてしまえば、子どもたちがおそらく親と戦ったのだろう一番大きなバケモノを守るように僕たちに攻撃を仕掛けてくる。これだとまるで女王アリと兵隊アリという感じだなと思いつつ、僕たちは子どもたちの繰り出した僕たちに群がってくる触腕を斬り飛ばす。


 別に子どもたちしか攻撃してこないのは相手の手数が減っていて少し楽ではあるのだが、厄介なことにバケモノの子ども、あいつらは何故か剣では殺せない。斬っても斬っても死ななかった。聖魔法を撃ち込んでみたがアンデッドではないようで無意味だった。


 仕方がないため、僕と陸くんがいくら斬っても死なないあのバケモノの子どもの攻撃を防ぎながら、空くんと海くんがあいつらに唯一効く魔法を叩き込むということをずっと繰り返していた。ただ、唯一効くとは言っても生半可な火力では倒れないため、空くんと海くんの二人は大幅な魔力の消耗を強いられていた。


 両親が戦ったときとは何もかもが異なっている。


 両親はあの一番大きなバケモノの猛攻で苦しめられたが、僕たちは今その数と剣に対する耐性に苦しめられている。状況が変わりすぎていて、もうあの動画も参考にならない。



 僕たちの戦いは常に防戦一方となってしまい、全くもって埒が開かない。


 あまりにもジリ貧だな……。流石に解放しないと厳しいか?


 ここまでやる気はなかったが仕方ない。このままだとある未来はただ一つ、敗北。その文字を避けるために僕は自主的に封印していた魔法を起動する。


「ここからは……僕たちのターンだ」


 僕はその時、回復術師を辞めた。



「——麻痺パラライズ、——猛毒デッドリーポイズン


 バケモノの子どもたちに小手調べとばかりに状態異常付与魔法を飛ばす。


 一瞬効いたと思ったがすぐに何事もなかったかのように僕たちの元に向かってくる。


「じゃあ、これはどうかな?——燻れ、灼熱地獄ヘルファイア

「kwaaa!kw……」


 一瞬やけに甲高い声を上げたかと思うと高火力には抗えなかったようで子どものバケモノの体がドロドロと溶けてダンジョンに喰われていく。


「処理完了」


 子どもたちが僕の攻撃で倒れると部屋の空気が固まった。


“???”

“俺らは一体何を見ているんだ?なんか回復術師の天くんが魔法を打ってた気がするんだけど……”

“気のせいだろ気のせい。……気のせいだよね?気のせいって言って!”

“うわぁぁぁぁ”

“最近の回復術師ってなんでも出来るんだな(白目)”

“もう回復術師とかそういうのじゃなくて人間やめてるレベルでチートじゃんw”

“諦めも時に肝要って言うじゃん”

“今までで驚いてたのが間違いだったんだな……。真の実力は隠していたと……”


 後ろにいる四人に目を向けてみれば一瞬天を仰いだ後、頬を抓っていた。


「夢?」


 そんな声も聞こえて来た気がする。陸くんから説明を求める視線が飛んでくるが一旦今は無視する。話は後だ。


「残ったのはお前だけだな?」

「qwaaaaaaaaaaa!」


 子どもを殺されたことに怒ったのか全身からハリセンボンのように触腕を飛び出させる。


「——斬れろ」

「qwaa、qwaaa!」


 魔法で飛ばした斬撃だからだろうか、攻撃が効いていた。全て斬り落とせた。


 ただ、すぐに僕の攻撃を受けて地に落ちた触腕がバケモノの体に吸収されて元通りになっていく。


 ちょっと面倒だなと思うのも束の間、次の瞬間にいきなりバケモノは部屋中に黒い泥のようなものを撒き散らした……。




———————————————


次回更新は明後日ですかね……。

最近暑すぎて外に出たくないです……。(関係ない)

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