第43話

「えっ?なんで……」


 ボス部屋の中にいたのはあのバケモノではなかった。僕たちの両親とおそらくそのカメラマンと思しき男性、総勢六名のパーティーメンバーだった。


 ポツリポツリとこの場にいる全員が親の名前を呼ぶ。


“えっ、どういうこと?なんで人いるの?そもそも誰?”

“政府が規制をかけていたから一般人は入れないはずなんだが???”

“知り合いっぽいけど……”

“いや、ちょっと待て。まさか……。でももう七年は経ってるんだぞ……?なんでまだ生きているんだ?”

“落ち着けって。普通に考えて七年も人は生きられないだろ……”

“そこにいるのって、あの『太陽の瞬き』のメンバーだよな……?”


 予想だにしない展開に理解の追いつかない僕たちに両親が手招きをする。


 それに吸い寄せられるように僕たちは近付いたが、僕はあるところで軽く唇を噛み、突然剣を抜き六人全員を容赦なく切り裂いた。


「あり得ない現実を見せるのはやめてくれ……」


 僕が斬ったはずなのに誰も倒れることがない。幻影か何かの類いかと思ったが……。


「アンデッド化したのか……」


 僕の肩が突然掴まれて揺すられる。


「ちょっ、何してるの!?」


 カメラマン役を務めている女性だった。彼女もおそらく父親と思しき名前を呼んでいた。つまり……


「……時間は戻らないんだ。僕たちは今しか生きれないし、過去との決別はいつかしなければならない。そうやって僕たちは成長していくんだから」


 異世界で僕が生き残り、ここまで強くなったのも過去の自分にケリをつけるためだった。


 優しく自分と彼女に言い聞かせるように。それでいてしっかりと伝えられるように。言葉を紡ぎ出していく。


「このダンジョンにカメラマンとして来たのも偶然じゃないんだろ?なんらかの目的を持って来たはずだ……。確か、あなたのお父さんの最期はあの動画に写っていなかった。多分、それを知りたかったんだろ。どうなったのか?もしかしたら生きているんじゃないかって。そして今、感動の再会を果たした。こんな状態になってしまっている親がいた。それだったらどうするべきだ?おやすみって言うべきじゃないか?」


 最後に僕の頭を軽くなでてこのダンジョンに潜っていった両親の手。大きくて何ものからも僕のことを守ってくれるような気がしたあの手。でも、もうここにはそんな両親はいない。


 少し呆けたような様子でどこか納得してくれたような顔。他の三人を見ても異議はなさそうだった。


 軽く息を吐き出す。


「仇は絶対に討つから。任せてほしい。……安心して休んでいてほしい——浄化の光」


 先程の不死竜の時とは少し違う光。それに少し両親は微笑んでくれた気がした。


「温かい……」


 誰かがそうポツリと漏らす。


“なんかよく分からんけど泣いた”

“子どもはこうして成長していくのか……”

“攻略マジで頼むぞ『銀河の蜿』のみんな”


 両親たちが消え去り、さてどうしたものかと思ったところで突然、部屋が大きく揺れて部屋中に魔法陣が描かれる。


 そこからバケモノたちが姿を現した。ゾワゾワとした悪寒が背中を走る。


“きもっ……”

“集合体恐怖症には無理や……”

“何度見ても慣れないな……”


「流石に多すぎないか?」


 両親たちが相手したときはあいつ一体だけだったのに……。何故だか、分身……いやバケモノの子どものような生物が五十体ほどいる。こいつらもおそらくダンジョンの魔力を吸って強くなったのだろう。随分と厄介だな……。


「qwaaaaaaaaa!」


 しばらくお互いにお見合いをしていたが、一番大きなバケモノがよく分からぬ耳をつんざく奇声をあげると同時にサイズの小さなバケモノの子どもたちが僕たちに襲いかかって来た。


 こうして、僕たちの本当の最後の戦いが始まった……。




———————————————


次回更新は明日かはたまた明後日か……。

星800ありがとうございます。遂に代表作を超えてしまいましたね……。(決して悪いことではない)感慨深いです。

さて、この作品も残すところ五話ほどとなりました。最後までより良い作品となれるように頑張っていきたいと思いますので是非最後までお付き合いください。

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