第38話

三十七話に少し描写を追加致しました。(日付の話です)


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 翌日の夜。改めてテレビで僕たちが三日後に“災厄”のダンジョンに潜ること、そしてそれを生中継することが発表された。


 その次の日、教室に入るときに人避けの魔法を使っておいたので以前のよう日囲まれることはなかったが、全員の話題に僕たちが“災厄”のダンジョンに潜ることが上がっており、少し気まずかった。……魔法で黙らせるべきだろうか?


 そんな僕に唯一話しかけられる、何か言われることを予想していた奏多は終始何か言いたそうでそれを思いとどまるということを繰り返すのみで何も言ってこなかった。何を言いたそうにしているのか気になったので思考解析を使おうと思ったが、僕は本人の話さないと決めた意志を尊重して敢えて使わなかった。


 そして、いよいよ決戦の日の前日というときに、僕が美玖に会いに行こうと教室を出たところで奏多が声をかけてきた。


「あの天くん!その……ちょっと話したいことがあるんだけど……」

「用事が終わってからでいいなら」

「全然大丈夫だから、じゃあその後お願い……それで用事ってどれくらいで終わりそう?」

「ああ、美玖に会いに行くだけだからすぐに終わると思うけど」

「……それなら、私も付いて行っていい?」

「いいけど。というか来てくれ。賑やかな方がいいから」


 前と同じように並んで歩いて病院まで行き、階段で病室に入る。もう気にならなくなったアルコールの匂い。


 そして、机を見てみれば前回来た時にはなかった花束が四つ。僕が来ていなかった間に誰か来たのか……。残念ながら心当たりは一切ない。


 誰か分からない四人の方に心の中で感謝を告げて、スゥ……スゥ……と安らかな寝息をたてる美玖の元に向かう。


 小さい手を握り、すべすべの頬を撫でる。


「美玖、散々待たせちゃってごめんな。お兄ちゃん明日お前のことを助けに行くから。母さんと父さんの仇も討ってくる。だから、あとちょっとだけ待っていてくれ」


 遂に来たんだ。不可能だと思っていたことが自分で達成できるという可能性が。


 待ち望んだこの時。遅いと怒られるかもしれないけど、僕は必ず決めてくる。


 一しきり美玖のことを見て満足した僕は沈黙を貫いていた奏多と向き合う。


「それで話って何?」

「……話ってほどじゃないんだけど……」


 奏多の中で何か踏ん切りが付いたのだろうか?ゆっくりと口を開いた。


「正直ね、天くんにはダンジョンに行ってほしくないの。あの化け物に負けちゃうかもとか考えると……」

「……」

「でもね、今日天くんのことを見てて思ったの……、これは止められないなって」

「……」


 ふぅと奏多が息を吐く。


「天くん、一つだけ約束して」

「……何でしょうか?」


 奏多の必死な表情に思わず敬語になってしまった。


「絶対に生きて帰ってくるって約束して。美玖さんのためにも……それと私のためにも」


 最後まで聞こえたぞ。小さく言ったつもりだろうけど。彼女のその不安を必死に押し殺そうとしてぎこちなく浮かべた懇願の顔に微笑む。


「もちろん、約束する。絶対に生きて帰ってくるって」


 じゃあ、これは願掛けねと言って奏多が僕に近付いてきて……、微かに彼女の柔らかな匂いが鼻腔をくすぐる。


「えっ?」

「その、頑張ってね!バイバイ!」


 駆け出して出て行ってしまい病室に一人、美玖がいるが、取り残された僕は彼女の唇が触れた場所に手を当てる。


「今の……キスだよな……」


 今まで言われていたから奏多の好意は知っていたが、こう直接的な手に出られるとやはり恥ずかしかった。


 窓ガラスに写る自分の顔は採れたての林檎の色に染まっていて、それに寝ている妹の前で一人悶えた。……終わったらしっかり向き合わなきゃな。



 その後、寮に戻り、何度も何度もあの時の動画を見直した。両親が嬲り殺される瞬間も、陸くんたちの親が地に伏す瞬間も。目を背けずに。奴への対策を考えながら。


 静かに瞑想をし、精神を研ぎ澄まして、ベッドに入る。



 明日、僕の最後の戦いが幕を開ける。


 絶対に勝つ。




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