第37話

 その場では適当にその冗談を流して、配信は終わりとなった。


「いやぁお疲れ様、皆。天くん、初回とは思えないほど良かったよ。……色んな意味で」

「それなら良かった。……ちょっと緊張してたから」

「全くもってそんなこと感じなかったんだけど……というより最後のあれ何?」

「あれ何?と言われても……。まぁ、簡単に言ってしまえば奥義というか……」


 まさか異世界で師匠に教えてもらった剣術ですとは言えない。


「……なんで回復術師が剣術の奥義を?」

「……さぁ?」


 そんなことを聞かれても僕の職業が勇者だからとしか言えない。ただ、そんなことは言えない(n回目)ので投げやりな答えになってしまった。


「まぁ、いいや。もう知らない。僕は何も見てない。今後の活動日は連絡するから、その時はお願い。バイバイ!」


 一瞬で遠ざかっていく背中。


「何か置いてかれたんだけど……」

「……仕方ないと思うよ」


 その場に残された海くんと空くん。


「取り敢えず改めて今日はお疲れ様!」

「陸くんが言ってた通りだけど凄かったよ……。初回からあそこまでやられると何というか存在感示しすぎな気もするけど……」


 それぞれ二人からお褒め?の言葉を頂き、ありがとうございますと返すと二人は並んで歩いて帰って行った。


 空を見上げてみれば、もうすっかり茜色に染まっていた。


「帰るか……」



 その後何度かダンジョンに潜り配信の回数を重ねたところで僕はある日、陸くんたちと一緒に探索者協会にやってきていた。


 ここに来たのは僕の職業を判定してもらったとき以来だろうか?


 とにかく数年ぶりの建物に足を踏み入れると一番奥の部屋に案内された。


 そこで待ち構えていたのは協会長を名乗る男。初めて会ったのだからそれくらいしか言いようがない。


「君たちの活躍は見させてもらっているよ。中々凄まじいね」

「ありがとうございます」

「……そこで正式に協会として依頼したいことがある」

「……」


 僕はゴクリと息を呑む。なんとなく空気がそうさせた。


「以前話した通り、君たちに“災厄”のダンジョンの攻略をお願いしたい」


 遂にか……。前に陸くんに言われてからもう一ヶ月。待ちに待った瞬間だ。


「具体的な日程としては四日後。ちなみにこれは国営テレビが生中継が行う予定だ」

「えっ?」


 誰が発したのか分からない声。だが、内心は全員同じだったはずだ。テレビに出るの?僕たち。


「一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「なんでも訊いてくれ」

「地上波で流すんですよね……。僕たちが攻略に失敗して死んだらどうするつもりですか?」


 えっ?そこ?


 僕以外の二人は陸くんと同じ意見のようでうんうんと頷いている。


 どうやら僕だけ違ったようだ……。テレビに出るって特別感があって緊張しそうだなぁ……って思わない?まぁ、他の三人は配信で慣れているのかもしれないけど。


「その時はその時だ。放映を中止する。……ただ我々は失敗しないと考えた。だから、地上波で放送しようという話になっただけだ。……自信がないなら放映はなしでも構わないが」

「いえ、放送していただいて構いません。……大丈夫だよね、皆」


 ああ。うん。形は違えども少し挑発じみたその言葉に全員が頷く。


 それを見て満足気に笑う協会長。


「いやぁ、それにしてもね。まさか全員が揃うとは……」


 全員……?何が全員揃ったなんだ?


「忘れもしない。……あの伝説と謳われたパーティーを。そしてそのパーティーを壊滅させたあいつを、まさかそれぞれの子どもたちが引き継いでいくとは……一体、何の因果なのか……」


 えっ?それぞれの子どもが引き継いでいく……?ということはまさかこの場にいる四人ともまさか……。


 他の三人に目を向けてみれば全員少し固い表情を、それでいて真っ直ぐな静かに闘志を秘めた目をしていた。


 元から負けるつもりは毛頭ないが負けられないなと改めて僕はこの時思った。




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明日も更新する(本当)ので文字数短めなのは許してください。

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