第34話
数日後の放課後、僕は闘技場で陸さんと向かい合っていた。とは言っても以前のような公式戦などではない。
昨日、メールでダンジョンに行く前にどれくらいの実力か詳しく知っておきたいと言われ、剣を合わせることになったため学園長に断ってこの場所を使わせてもらっているだけだ。ちなみに海さんと空さんは以前見た通り、魔法がメインらしく大人しく僕たちの見学をしていて、更には奏多も観に来ている。
「じゃあ、行くよ〜!」
そんな朗らかな声とともに陸さんが僕の元に突っ込んでくる。
(おお、速いな……。一撃一撃も魔力を使ってないとは思えないくらい重いし。)
僕は以前九条との公式戦で使った剣を合わせながら動きに目を向ける。
無駄のない洗練された動きに、それにしっかりと応えるしまり切った体。正直言って僕自身はあまり剣を振らないので羨ましい。
「やるね〜。じゃあ、こんなのどう?」
剣の動きを速くした上で変則的な振り方をしてくる。剣の振る軌道を途中で変えたり、速度にムラを作って不意をついたり。
「楽しいな……」
僕は思わず笑みを浮かべてしまった。現実世界に戻ってきてからこんなことは、しっかり剣を合わせるなんてことはなかったからだ。
でも……。
「そろそろ僕も行きますよ」
僕は刹那に陸さんの後ろに回り込み、剣を振った。
(おぉ……)
陸さんは咄嗟に自分の背中に剣を回して僕の攻撃を防いでいた。
ただ次の瞬間、また僕は回り込み反応出来なかった陸さんの首元に剣を突きつけていた。
「チェックメイト」
僕のその言葉に剣を落として驚いたような顔をしながらも素直に拍手を浴びせてくる。
「強いね……」
「まぁ、お互いに魔法禁止ですからね。強化魔法を使われたらどうなっていたか分かりませんよ」
正確には僕も使えるようになるので(元から使おうと思えばいつでも魔力感知をすり抜けて使えていたが)逆転されるということは早々起きないだろうが。
「いや……、それでもだ。上野くん……、いや天くん、君って本当に回復術師?実は職業、僕と同じ剣士だったりしない?」
「……僕がれっきとした回復術師だということは調査済みなのでは?」
僕の家族事情を知っているのだからそれくらいは朝飯前だろう。学園への入学時に計測したデータなどを入手するなど。
ただしどんなことをしても、今の僕の本当の職業が勇者だということを知ることは誰にも出来ない。
「そうなんだけどね……。信じられないというか信じたくないというか……いや。心強い味方が出来たと思おう」
ウンウンと頷きながら自己完結させた陸さんは今後の予定を僕に告げてくる。
「早速、明後日一回全員で連携とか確かめたいからダンジョンに潜るけど時間とか都合つく?」
「ええ、休日なので予定も入っていませんし」
「オッケイ。それなら良かった。じゃあ放課後迎えに行くから。……あっ、あとそうだ言い忘れてた。天くんのこと、『銀河の蜿』の新しいパーティーメンバーとして視聴者さんに紹介しちゃっても大丈夫?顔晒すの嫌だったら仮面とか付けてもいいけど」
「いえ、大丈夫です。晒しちゃって」
以前、『混沌の光』の皆さんを救ったときにもう顔は晒してしまっているから特に困ることはない。
「今日は楽しかったよ。じゃあまた明後日」
そうして三人が去っていくと奏多が僕の元に寄って来た。
「お疲れ様〜、やっぱり強いね、天くんって。はい、お水」
「ありがとう」
奏多から受け取ったペットボトルを飲み終わってから思った。
あれ?僕、ペットボトルなんて持ってきたっけ?それにキャップ元々開いていたような……。
「奏多、この水って……」
「その……私の飲みかけ……」
顔を真っ赤に染める奏多。それを見て間接キス!?と焦り出すのが僕。
「ちょっ、ごめん。本当に。そんなつもりはなくて」
「冗談♪」
「えっ?」
テヘッと悪戯っ子のように笑う奏多。
「ごめんね。まさか信じると思わなくて……」
そう言われてしまうと怒るに怒れない僕だった……。
———————————————
真実は闇に包まれたまま……。
次回の更新までに少しだけ第二話に改稿入れます。
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