第32話
(いや、なんで?おかしくないか?僕は加奈のことを男性恐怖症にしたはずなんだが?)
僕がそう逡巡している間に加奈は顔を真っ青にしながら僕の服の袖を掴んでこようとする。
「お願いします……、助けてください……」
助けてもらう立場ではないだろ。自分のとった行動の責任を取らされてるんだから。……でも、僕が記憶を消しちゃったせいで自分が何をしでかしてこの立場に陥ったのかさえも理解できていないのか……。
加奈も九条と同じような目に合わせるか?別に体を斬り落としたりはしないけど、軽く記憶を呼び起こして……。しばらく考えている内にこうするのが正解のように思えてきた。
そうと決まってしまえばあとは簡単だ。耳元で加奈以外に聞こえないように静かに思考誘導の魔法と一緒に囁く。
「……放課後、校舎裏に」
思考誘導といっているがかなり効果の強いものなので実質命令だ。
彼女にそう刻み込んだ僕は教室から回れ右をさせる。
僕と加奈のその様子を隣で見ていた西野さんの少し暗い表情が印象的だった。
放課後、僕が約束の場所に赴くと同時に加奈が僕に縋るように抱き着いてこようとした。
「天くん……、助けて……」
「……何を?」
「私……妊娠したの……」
「!……だから何?」
いきなり加奈の口から発せられた衝撃の言葉に一瞬驚かされたが、すぐに冷静を取り戻した。
そんなことを僕に言われてもお門違いが過ぎてへぇ〜、そうなんだ。よかったじゃん。おめでとうとしか言いようがない。
「なんで妊娠したのかも分からないんだけど、天くんに訊けば何か分かるし、助けてもらえるって本能が言っていて……」
「……」
助けてもらえるとか都合が良すぎないか?
まぁ、そうは言ってもその本能半分は当たってるんだけどさ……。何か分かるの方。元から記憶を戻すつもりだったし、折角だから現実を教えてあげるか。
「なんで妊娠したのかの方は教えてあげるよ。ほい」
男性恐怖症と消していた記憶を元に戻した。僕が魔法をかけていた期間に自分がしたことも含めて。
加奈は戻ってきた記憶により、顔がじわじわと青ざめていった。
「えっ?どういうこと……?なんで?」
そうぶつぶつと呟いているだけで自分の行動原理が分からないらしいので、僕がやったことと九条の現状なども軽く教えた。
すると、加奈は突然震え出した。
「なんで……、こんなことしたの……?」
「……自分が一体何をしでかしたのか理解してからにしてほしいな。そういうことを言うのは」
「っ——」
自分の痛いところを突かれて詰まる加奈。
ただ止まってしまったらおしまいだということは理解できているのか僕に質問を投げてくる。
「私は……どうすればいいの?」
「さぁ?好きなようにすれば?産みたければ産めばいいし。おろしたければおろせばいい。そこら辺は任せるよ。あっ、間違っても責任を取らせるのを僕とかにしないでよ。九条でお願い。僕と君の間にそういう関係はなかったんだから」
「……」
唇をぎゅっと噛んでいる。
何を考えているのか思考解析で覗いてみると九条が使い物になるかどうか思案しているところだった。そうして考え込んだ先に出した答えは——
「ねぇ……、天くん……。そのやり直さない?私たち」
なんとも加奈に都合のいいものだった。
「ごめん無理。自分の行いの結果なんだからしっかり責任くらい自分でとろうか」
僕がそう冷たく突き放すと、加奈はその場で泣き崩れた。
「ごめんなさい……、ごめんなさい。許してください……。お願いします……」
僕はそう謝り続ける加奈は冷ややかな目で見つめてその場を去ろうとした。
そんな僕の服の裾を掴み、加奈は必死に縋りついてくる。お願いします。本当にごめんなさい。何でもしますからと。そんな様子に自分でやっていることながら、少し哀れみを感じてきた。
ただ、許す気までは起きなかったので精々反省してくれ……とだけ言い残し今度こそこの場を去った……。
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鬱病とかいって休んでいる余裕など日付を見て消え失せました。
基本悪化しないかぎり毎日更新します。
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