第14話
僕は
この空間で先に口を開いたのは九条だった。
「悠乃!」
そうして辺りに誰もいないからと抱きつこうとする。僕は咄嗟に悠乃という女子に緊急回避魔法を飛ばしてそれを躱させる。
「やめてください!」
九条は悠乃という女子の拒絶するような声に少し驚いたような顔を浮かべた。
「何言ってるんだよ……、俺とお前の仲だろ?最近、あの久保田とかいうやつに迫っているけどあれも俺を嫉妬させるためだろ?」
「何言っているんですか?私とあなたの仲とは?それに私はそんな意図なんてないんですが。何故か皆さん私と颯志くんの仲を忘れていられるようですが、彼が私にとって一番いや、この上なく大切な存在なんです」
そうなるような魔法を彼女にかけたとはいえ、そう顔を赤らめさせながら言うのを聞いて少し僕は笑ってしまった。随分と滑稽だったからだ。
その九条は少し呆気にとられたような顔をしていたが、何を言っているのか分からないという風に首を捻った。
「本当にどうしちゃったんだ、悠乃?どういうことだ。そうだ。ちょっと待ってくれ……」
ポケットに手を突っ込む。
「ほら、これだ」
そういって九条はスマホをポケットから取り出すと悠乃という女子におそらく浮気中に二人でとったのだろう写真を見せた。
「えっ?何ですかこれ?」
「俺とお前が付き合っているときの写真だよ」
「……冗談も行き過ぎると本当につまらないですよ。私にこんな記憶なんて、まずまずあなたと話した記憶すらないんですが。まさか編集ですか?こんな子どもだましで何をしたいんですか?」
そんな白い目をして九条のこと見ているけど、冗談ではないんだよな。記憶から消えてるだけの真実だし。
「控え目に言って、気持ち悪いです。今後一切関わらないでください。私がこの身を捧げるのは颯志くんだけなんです」
滅茶苦茶に言われ精神をズタボロにされている上にどこまでいっても自分の思い通りに進まない、行き違った会話に腹を立てて九条は叫ぶ。
「おい、本当になんなんだよ!おかしいだろ!……いや、もういい強制的に思い出させてやるよ。記憶にないとしらばっくれていても体は正直だもんな!」
九条は悠乃という女子に襲い掛かる。
「キャア!助けて、颯志くん!」
どこまでも久保田くんに期待を抱いてるんだな。僕の魔法があるとはいえ、それなら最初から裏切らなきゃよかったのに。
「ここにいないやつに助けを求めてどうするんだよwいい加減素直になれって」
「はぁ……」
僕はかすかに溜息を吐く。
流石にここまでかな。別に今の彼女を性被害に合わせるつもりはない。というよりはその九条の抱く欲求、クズの欲望を満たさせるつもりはない。
同時に本体の世界でも僕は溜め息を吐いていてしまったらしく怪訝な目を隣りを走っている西野さんから向けられるが、僕は首を軽く振って誤魔化す。
僕は分身に意識を戻して九条からそれをさっさと取り上げる。
「——
ヤダァ!助けてと声をあげ続けていた悠乃という女子の体が急に輝きだし、その場から姿を消した。一足先にダンジョンの外に送っただけだ。
九条は目を見開き、辺りを見渡す。だが辺りにいるのは二体の蒼竜に先ほどの大声で集まったゴブリンの群れ。先ほどまでグルグルと周りをまわっていただけのモンスターが九条の方を見つめる。九条はそれを見て固まった。
僕はそいつらを操り、九条を襲わせた。
死なせないように、蒼竜のブレスで腕が吹き飛んだその瞬間やゴブリンの攻撃で足が折れた瞬間に、腕が吹き飛んだということを認識できないくらいの時間で
「ん?ぐあああああ……。何なんだ……。幻覚なのか?ウッ、いや違う?わからん……。うわぁぁぁ、体がぁぁぁぁ……!」
ううん……何かやっぱり物足りないなぁ……。苦しんでいるのはわかるんだけど、僕と同じように圧倒的理不尽からくる絶望に震えながら死んでもらわないと駄目なのかな……。
それとももう少し蒼竜とかを上手く使うべきだったのか……?
僕はひたすらにモンスターに嬲られ続けている九条を見ながら考え続けた。
一応、この後の筋書きも見えてはいる。
僕たちがダンジョンから脱出すれば蒼龍が出たこと、そして九条がダンジョンに取り残されたことは学園側の知るところとなる。そうすれば、僕と西野さんの件があるので相手が蒼龍とはいえども精鋭を集めて間違いなく救出隊は送られるだろう。万が一救出が送られなかったとしても頃合いを見て、九条がモンスターに殺されないようにしながら、僕が転移で強制的に脱出させればいい。
そして、その先で僕は——九条から最後の支えとなる存在を奪う。
じゃあいいや。助けが来るまで精々悲鳴を上げ続けてくれ。あっ、ちゃんと睡眠の時間は取らせてあげるから安心しろ。もちろん悠乃という女子がほかの男とくっついていて、お前がゴミのように扱われる
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