第50話 追憶2
天候の変わりっぷりに驚くご主人にお礼を告げ、俺たちは山頂を目指した。所々に雪が残っていたけど、俺たちの歩みを阻むほどじゃない。
さっきまでの猛吹雪が嘘のように
みんなには少し疲れの色が見えたけど、無事山頂にたどり着けた。山頂には噴火事故の献花台が設けられていて、すでに多くの花束が備えられてある。
俺たちもリュックから花束を取り出し、それぞれ献花していた。
厳密に言うと召喚されたみんなは大嶽山で死んでしまったわけじゃない。だけど、俺たちに行くことができるのはここしかなかったから……
献花を終えると献花台の前で手を合わせ、勇者たちと被災した人たちの冥福を祈った。
「姉貴、あたしはこうやって元気にしてるよ。もう、大丈夫だから! また来るからな」
「憲治さん……桐島さんからあなたの最期を教えてもらいました。私はあなたの妻であることを誇りに思います。来世でもあなたと出逢えるよう願って……」
「お父さん、ありがとう! お兄ちゃんと私でお母さんを支えていくから! ゆっくりお休みください」
それぞれ、募る思いを告げた。山頂で献花を終え、下山しているときだった。
「ちょうどあそこにいるときに俺たちは異世界に転移してしまったんです」
と、鈴音さんたちに説明していると……
「おい……あれ……」
花山が指差したのは山頂火口付近。彼の顔を明らかに青かった。さっきまで噴気のふの字すらなかったのに白い噴煙が雲に掛かるんじゃないかってくらい噴き上げていたからだ。
あり得ない!
ちゃんと入山規制も解除されてるっていうのに、あんなに噴煙を噴き出すなんて! おまけに火山灰がパラパラと降ってきてしまっていた。あのときのことがフラッシュバックして、呼吸が苦しくなる。
「はあ……はあ……みんな、早くシェルターに……退避しよう……」
「ああ、だけど桐島、大丈夫か? 呼吸が妙に荒いぞ」
「大丈夫だから、早く……」
みんなは俺の言葉に従い、コンクリート製の頑丈なシェルターへと足を向けた。だが、花山は……
「おらよ、そんなふらふらじゃ、転げ落ちちまう」
「あ、ありがとう」
ニヒヒっと白い歯を見せながら、俺の脇に頭を入れて、肩を貸してくれていた。
「構わねー、俺たち親友だろ?」
「あ、ああ、そうだな」
抱えられ、花山の友情に目頭が熱くなる。
そのときだった。
ドーーーーン!
と轟音が周囲に鳴り響き、ヒュルルルーーッと大きな物体が飛んできていた。俺は花山の身体を突き飛ばし、彼の身体が物体の下敷きにならないのを見届ける。
「桐島ーーっ!!!」
親友が助かるであろうことに俺は安心して、思わず笑みがこぼれた。もう飛んできた巨大な物体、噴石との距離は十メートルもない。だが、飛んできた噴石に身体が無意識の内に動いていた。
【浸透波動斬】(体術の章)
アイナのザカリエス家伝の剣術に白樺さんに教わった自衛隊徒手格闘を合わせた体術の突きを噴石に向かって中空に放つと……
パァァァァァーーーン!!!
噴石が空中で爆散して、砕け散った噴石の粉がパラパラと落ちていた。本来は剣などの武器を介して放つ技だがいろいろと試している内に素手でも内部崩壊を起こせるようになったものだ。
俺は【
「え!?」
「は!?」
俺と花山は何が起こったのか分からなくて、お互いの顔を見合わせる。
「俺、なんか異世界のスキルが使えたみたい……」
「そのようだな……はは……はは……」
「だから、俺が噴石を防ぐから花山は早くシェルターに」
「お、おう……」
花山が山道を下る中、俺もその後を噴石の処理をしながら追った。みんなの頭上に降りかかる噴石は縦拳の空突きを放つだけで面白いように砕け散っていく。
みんな無事にシェルターに退避できたようなので、俺はひと仕事してこようと思った。
異世界のスキルが使えるなら……
(噴火を止められるかもしれない!)
花山が滑り込んだあと、シェルターに奇跡を信じて異世界で使っていた結界魔法を唱えた。
【
透明な
俺がシェルターに入らずに山頂方向に向かったことに鬼塚さんが訊ねた。
「桐島っ! どこに行くんだよ!」
「ちょっと噴火を止めてくる!!!」
「はあ? そんな危ないだろ、戻れって! 行くな……行っちゃだめだぁぁーーっ!」
障壁を隔てて、彼女と話していた。俺を心配してくれて、必死に止めようとしてくれていた。俺は莉奈さんと鬼塚さんに出会えて幸せだったと思う。一つだけ心残りなのは彼女の想いにちゃんと答えを出せなかったことだけ。
「鬼塚さん……俺は勇者なんだ。だから、みんなを守る義務があるんだ。信じて!」
俺に出せる答えは莉奈さんに代わって、彼女を守る!
急ぐのでバフ全部載せしたら、こちらもきっちり使えてた。足が羽根のように軽く、空気の薄い山頂付近でもまったく苦にならずに瞬時に山頂に戻ってくることができた。
【
今まさにマグマが噴き出さんとする火口に向かって、俺は魔王アザリケードから引き継いだドラガレア最強の氷結魔法を放った。
あれっ?
無事、マグマを氷つかせた俺だったが、みんなの下に帰る内に今までほとんど発作を起こしてなかった【幻肢痛】の痛みが襲ってきた。
「「桐島っ!!!」」
「要!」
「「桐島くん!」」
「「桐島さん!!」」
途中で膝をつくと、みんなが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。大丈夫……大丈夫、心配しなくてもちゃんと戻れるから、と伝えようと手を振るとなんだか手が透けて見えるような気がした。
「「桐島ぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」」
鬼塚さんたちの悲痛な叫び声が届いてくる。ああ、なんか格好つけたのにこれじゃザコ丸出しじゃないか……やっぱり俺は俺だったんだな。
でも、勇者らしくみんなを守れたんだ。
世界は違うけど、あの世が一緒なら、白樺さんたちと再会できるかな? 再会したら、白樺さんのご遺族と莉奈さんの妹の鬼塚さんを守り抜いたこと、誉めてくれるかな? それだけが気がかり……二人にまた会いたい。
身体が消えゆく中、俺は追憶の道をたどる。
魔法やスキルが使えた?
だとしたら、あのデリートは、効いていたのか……?
じゃあ、何を忘れた? 誰を忘れた?
分からない……思い出せない……
まさか、俺にしょっちゅう絡んできた、あのメンヘラだって言うのか!?
* * *
(香織ぃぃぃぃーーーーっ!!!!!)
再び意識を取り戻したとき、強烈に頭に飛び込んできた名前。ずっと忘れていた俺の彼女。俺を裏切って、他の男と寝ていた女の子……俺はデリートで彼女を忘れたのだとようやく思いだしていた。
俺はどこか分からないベッドの上に寝かされていた。横を向くと俺を心配そうに見つめる女の子の姿があった。
「マリエル!?」
涙目で……えっ? 口づけ……された?
何度、彼女と再会したいと思ったことか……マリエルと離れ離れになって、一日千秋って言葉が本当のように感じた。
そのマリエルが俺の目の前にいるんだ。
涙が自然とあふれてくる。
だけど、何かが違う。
「会いたかった! でも、その目はいったい……どうしたの?」
彼女は黒の眼帯をしていた。俺がそのことを心配していたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。
「本当にその馬鹿さ加減は変わられていらっしゃらないのですね……呆れて、ものが言えませんわ」
女の子は深いため息を漏らしたあと、上から俺を見下げながら嘲笑うかのように言葉を吐く。
「は?」
最愛の人から投げつけられた侮蔑の言葉に頭が混乱してしまう。マリエルはそんなこと、俺に絶対に言わない……
「まさか……まさか……そんなことがあってたまるか! おまえはもう死んだはずだ!」
「あら失礼ね。ちゃんと足もありますわ」
そういうと長いドレスの裾をたくしあげ、俺にさも美しいでしょう? と言わんばかりにガーターベルトで留められたレースついた
悔しい……!
ユリエルの下着を見て、欲情してしまったことが……そんな俺の様子を見て、「おーほっほっほっ!」 とマリエルのまがい物は高笑いをあげる。
俺……ユリエルにキスされたのか!? 何で!? 俺のこと毛嫌いしてたんじゃないのか? 分からない、分からない!
俺が混乱で頭を抱える中、ユリエルは腰に手を当て仁王立ちしながら高らかに勝ち誇って、上から目線で宣言していた。
「このユリエル・エイシャ・アラステアがあの程度で滅ぶと思って?」
転移し、想い人だったマリエルと再会したかと思った。だが、目の前にいる女は死んだと思われた
―――――――――あとがき――――――――――
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。実はこの先の原稿が見つからなくて、探しています。もしかしたら、PCにあるかもしれないんですが……。
原稿がなくても、また落ち着いたら再開しようと思います。そこでアンケートを取らせてください。(A案だと以前の原稿とほぼ同じ流れになるかと思います)
■アンケート内容
A.このまま異世界に留まる
B.現実世界に双子姫と共に戻る
よろしければ応援コメントでお聞かせねがいます。あとフォロー、ご評価いただくとやる気が出て再開が早くなると思いますのでよろしくお願いいたします。
作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。
【乙女ゲーのざまぁされる馬鹿王子に転生したので、死亡フラグ回避のため脳筋に生きようと思う。婚約破棄令嬢と欲しがり妹がヤンデレるとか聞いてねえ!】
異世界ファンタジーざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!
表紙リンク↓
異世界から生還したら、クラスメートに幼馴染を寝取られてたので俺は彼女の記憶をデリートした 東夷 @touikai
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