勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫


 どうも、異世界に呼ばれ、聖女様聖女様と勝手に称えられ最後には偽者だと罵られて追放された元会社員です。


 IT企業に勤めていた、25歳独身彼氏無しの立花菫と申します。


 

「わぁぁぁぁぁぁぁ!! 成功だぁぁぁぁぁぁ!!」




 いきなり呼び出され、置いてけぼりにされて周りで勝手に自分達を称え合い喜び合うよく分からない服を着た人達。まさかこんな大勢の人達に放置プレイをされるとは思いもしなかった。



「貴方こそ! 我々が求めていた聖女様です!」


「おお、神よ!!」




 ……は? 聖女? いやそもそもここはどこだって所から始まるのだが。






 ここは異世界、地球ではない。


 メルテルテア帝国、私が召喚された場所の国だ。と言っても、ここは神殿。この国は、皇室と神殿の二大勢力となっているらしい。


 最初、彼女はこの国の助力者、なら皇室でお守りするべきだ。そう主張する皇室と、いや、彼女を召喚したのは我々神殿、なら責任を持って我々神殿の者達がお仕えするべきだと主張する神殿で揉めた。


 結局、私は神殿から出してもらえずその場に留まらざるを得なかったのだ。


 それからの生活は……まぁまぁ充実したものだった。生活は、ね。


 聖女様はこうあるべき、と押し付けられて勉強をさせられて。参拝者に拝まれ、話す時には覚えさせられた原稿を読まされて。そりゃあまぁ笑いたくなったよ。




 そして、その日はすぐに来た。


 とある事で、私が偽物だと主張する者が現れたのだ。その人物は、結構位の高く神殿のスポンサー的存在の方でその話を無碍には出来なかった。


 そして、偽物呼ばわりをされて追放されてしまったのだ。



______________

 STATUS

 立花菫 聖女/Lv.MAX

 聖女の祈り  LV.MAX

 神の御声   LV.MAX

 五大元素魔法 LV.MAX

______________



 まぁ、こういう事である。








 

 メルテルテア帝国の外へ追い出された私は、とりあえず目の前にあった森の中へ進むことにした。


 手持ちはなし。だからお腹が空いても食べ物はない。だけど森なら、何か木の実などがあるだろうし森に進むことを選んだ。


 何か凶暴な動物に出くわしたら、五大元素魔法? で撃退すればいい。使った事ないけどとりあえずLv.MAXらしいから多分大丈夫だろう。



 しばらく歩くと、川が見えてきた。おぉ、何と神秘的なんだ。いや~結構歩いて疲れてたんだけど、川の流れる音といい涼しげな風といい、これは心地良くて癒されるわ~。


 さてさて、一度試してみたいことがあったんだ。


 ステータス!



______________

 STATUS

 立花菫 聖女/Lv.MAX

 聖女の祈り  LV.MAX

 神の御声   LV.MAX

 五大元素魔法 LV.MAX

______________




 ここに書いてある、神の御声というスキル。神殿では、ただ女神像の前に跪き手を組んで祈りのポーズをするだけで、このスキルとやらは全く使わなかった。


 スキルの使い方というのはわからないけれど、ただ同じようにして祈ればいいだけなのだろうか。まぁ神の前で祈らなければいけないのかどうかは分からないけど。



「えぇーっと……おー神よー、この哀れな私に御恵みをお与えくださいー」



 ……これはやりすぎか? 流石に神様も怒るか?


 ちょっと反省していた時、コツンと私の頭に何かが落ちてきた。いったいな、誰だこの聖女様に物を投げつけた阿呆は。



「何じゃいこれは、本? ……て、えぇえ!?」



 こ、これは……! 召喚される前に何度も見た事のあるものではないか!



 【カタログギフト】



 てか分厚っ! あ、でもいっぱい載ってる~! あ、この焼き菓子美味しそ~!


 ちらり、と表紙に貼ってあった付箋紙を見つけた。見てみると何度でも注文できるそうだ。いやいや、神様字が達者ですな。しかも手書きですか。素晴らしい。



「そうだな~まずは、腹ごしらえからかな」



 これは、また祈ればいいのかな。と思いさっきと同じようにしてみた。正解だったようで、天上から箱に入って落ちてきた。扱い雑だな。割れ物だったらどうするんだ。



「ん~美味ぁ! そうそうこれよこれ! この味を私は欲していたのよ!」



 神殿でのあの食事はハッキリ言って美味しくなかった。てか味薄い! もっと美味しく作れないのかって厨房に殴り込みに行きたかったもん。


 よーし、これなら何とか生活は出来そうね。あとは、生活スペースを確保しなくっちゃ! けど地図がないからなぁ、ざっとだけど方向と国の位置は分かるけど……身分証もなし、例え私が違う国に入ったとしても入れてもらえるか分からない。


 とりあえずは、この森で何とかしなきゃならないって事か。……何とか、と言ってもなぁ。サバイバル的な? ま、やってみるに越したものはないわな。


 よっしゃー! とりあえず行ってみよー!!








 一方その頃メルテルテア帝国では。



「何? 物資が届かない?」


「は、はい、陛下。いきなりの天気の大荒れの影響で、海が荒れ船を出すことが出来ないとの事です」


「貿易を結んでいるラティルール国は島国であるからな。海以外のルートが取れない為一時中断せざるを得ないという事か」


「はい……輸入量が一番大きな国でしたから、痛手ではありますが仕方ないかと」


「天気が収まるのを待つ、しかないか」








 そんな事は全く知らず、悠々自適に生活環境を整えつつある聖女立花菫は今、少しずつではあるがスキルを使いこなしつつあった。



「なるほどなるほど、これが食べられるキノコで、こっちがアウトなキノコか。これ食べたらどうなるんだろ、毒キノコらしいからやっぱ死んじゃう? いや、でも私聖女だし。しぶといでしょ」



 神様から頂いた植物図鑑。あ、この世界仕様ね。それを駆使して食べられるものとかを探し歩ているわけだ。いや~神様太っ腹! 最高! ありがとうございます! もう毎日でも拝ませていただきますよ!


 食べられるキノコを採取したら、五大元素魔法の一つである水魔法を発動。キノコを洗い流す。そして、火魔法であぶって、神様のカタログギフトで貰ったお醤油をひと垂らし。ん~美味ぁ! 焼きたてのキノコはやっぱり美味しいね! 何というか、シイタケっぽい味だ。これはいけるね、いっぱい採っとこ!


 神様から貰ったバッグにいっぱい詰め込み、来た道を戻った。この先にあるのは小さな洞窟。今はそこで生活している。あ、ちゃ~んと凶暴な動物がいないか奥まで確認してあるから入口から入ってこない限り大丈夫!



「たっだいま~みんな!」



 みんな、私がそう呼んだのは洞窟の中に居座っているもの達の事だ。元気にぴょんぴょん跳ねまわる可愛いピンク色をしたウサギ。あと、水色と白のウサギ2匹も。大きな図体をしている癖にちょっと恥ずかしがりやな大熊。めちゃくちゃ尻尾を振り回す食いしん坊わんちゃん。でっかい身体をした銀色の毛並みの狼さん2匹だ。


 いきなり近づいてきたと思ったら食べ物をくれて、その後小雨の時雨宿りのつもりで私の家にやってきた。最初は熊さん、そしてどんどん増えていってこうなってしまったのだ。



『遅かったじゃないか』


「みんないっぱい食べるから頑張ってたくさん取ってきたんだよ。中には食いしん坊さんもいるしね~」


『僕の事言ってるの? でも身体のデカい2人だって一杯食うじゃないか!』



 そりゃそうだ。あぁ、みんな驚いた? そう、この子達喋れるのよ。日本語、とまでは言わないけど、何となくで通じてる感じ? 理解出来ちゃってる感じ。凄く不思議だけど、まぁ私聖女だし。それで納得してしまったわけだ。



『なぁなぁ! それより今日のメシは? 俺もう腹減っちまったよ!』


「いやいや、今何時だと思ってるのよ。夕飯にしては早くない?」








 一方その頃メルテルテア帝国。



「な、なにぃ!? 神殿が雷に撃たれて崩壊だと!?」


「は、はい……辛うじて女神像は破壊を免れたのですが、神殿の建物は無残に崩れてしまい……」


「な、何という事だ……落雷が、よりによって神殿に落ちるとは……」



 神殿とは、神聖の場所。今この国では天気があまりにもよくない状態だ。ある領地では全く雨が降らずに水不足で不作となり、またある領地では大荒れで川が濁流・洪水状態がずっと続いている。そして今度はこの帝都が大雨で落雷、神殿が崩壊してしまった。


 民たちはこう言った、これは神の怒りだと。


 神の怒り、思い当たる点は多々あるが……一番はこれだ。



「だから言っただろう! 聖女であるタチバナ殿を追い出すと良くないことが起こるかもしれないと! これがその証拠だ!」


「偽物と言ったのはどこのどいつだ! 私は反対しただろう!」


「祈りの際変化する金色の瞳がなかったではないか!」


「それは迷信ではなかったのか!」


「ではなぜ聖書にそう記されていたのだ! 神殿が嘘をついたとでも言うのか!」



 この言い合いは収まる事は無くどんどんエスカレートし始めている。だが、答えは全く出てこない。


 それを止めるべくこの国の皇帝陛下は一言告げた。



「聖女を連れ戻せ」


「と、言いましても……追放したのは、我々の方ですから……」


「だから何だ、何が何でも連れ戻さねばこの状況は収まらんぞ」


「で、ですが……今現在どこにいるかが分かりませんので……」


「全軍連れて行ってもいい、直ちに聖女タチバナ殿の捜索に当たりさっさと連れてこい!!」








「いや~平和だねぇ~」


『スミレがいるからだろ?』


「私? 何で?」


『だってスミレ良い匂いするもん』


『そーそー、花の匂いって感じ?』


「ちょっと待って匂い嗅がないでよ!」



 呑気に川辺で水遊びをしている私達には、そんな国の危機など知る由もなかった。


 聖女タチバナ殿捜索隊? そんなの会わなかったよ?



 因みに言うと、聖女立花菫のいるこの森は知らず知らずのうちに聖域と化していた。


 入れるのは、本人は勿論、この森の住民のみ。


 メルテルテア帝国捜索隊の者達は、きっとこの森に足を踏み入れた所で迷い込み入口に戻るの繰り返しとなるだろう。




『そうだそうだ、なぁスミレ! この森の奥にさ、神殿があるんだよ』


「神殿? 誰かいるの?」


『いないよ。だいぶ前から放置された神殿なんだ。だからあの洞窟よりそっちに行こうよ』


「え、神殿で寝泊まりですって? そんな罰当たりな事していいの?」


『聖女が何言ってるんだ? 毎日お祈りでもすれば大丈夫だろ』


『それに神様太っ腹だしね~』


「ん~、まぁ行ってみよっか!」



 のんびり豊かに、そんな夢に思っていた生活がこれから続くのであった。え? 私を捨てた国? そんなのあったっけ?


 おしまいおしまい。

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勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~ 楠ノ木雫 @kusuta

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