夏と言うのは、命の盛りの頃です。それはつまり死とも濃厚に近しくある、ということを意味します。この物語の語り部は、過去をじっと見つめています。恐らく、命を再生産する立場にあるのでしょう。遠い遠い夏の日、失われた二つの命。母。そして子。あたえるものの死。あたえられたものの死。その狭間で、自らの身の置き所のなさと、疎外感をおぼえていたであろう語り部の心中を想うとーー胸がぐっとつまります。言葉の使い方も、すばらしかったです。