御題拝借! ~あるいは男子高校生たちのどこか偏っている部活風景~
シンカー・ワン
丁々発止
【それは、天上の白き宝玉と呼ばれていた。】
散切り頭に都市迷彩のバンダナを巻いた偉丈夫が、ホワイトボードにマーカーでそんな言葉を書き記す。
偉丈夫は振り返って、その場――県立
「本日の活動だが、この一文からどんな物語が思い浮かぶか、だ」
面白くなる事を期待した顔で言い放って席に就く。
言葉を受けたのは四人の男たち。
テンションの低そうな仏頂面、逆に妙にテンションの高いメガネ、愛想の良い童顔と場に似つかわしくない
なかなかに癖の強そうな面子である。
「ふむ。つまりは連想ゲームか、大喜利ってことね」
メガネが玩具を与えられた子供のような、実に楽しげな表情を浮かべ、言う。
その顔を見、この先の展開がどうなるのかを想像したのだろう、あからさまな困り顔をする偉丈夫。
「なるほど、じゃあこんな感じかな? ――雲の中に浮かぶと言われる "天上の白き宝玉" には有り余る財宝が眠っているという」
ハンサムが顔に似つかわしい美声でそう口にすると、
「宝を物にせんと多くの者たちが大空に白き宝玉を探したが、見つけ出した者はいなかった」
愛想良しが軽やかに続け、
「田舎の炭鉱で働く少年には夢があった。亡き父が見たという、幻の白き宝玉を見つけ出すという夢が」
泰然と、仏頂面。
「ある日少年の働く場所に何者かに追われる少女が現れる!なんと、少女は天上の白き宝玉の居場所の手かがりとなる存在だったっ」
席を立ち、身振り手振りを交えて、ノリノリで語るのはメガネ。
「――少女の手を取り、少年は数々の困難を潜り抜け、ついに天上の宝玉へと辿り着く」
こみあげてくる笑いをこらえながら、偉丈夫が乗っかり、続けて皆が一斉に言う。
「ラ〇ュタは本当にあったんだっ!」
見事にハモった後、全員が笑いだす。
「――しっかし、何と言うか、これでもかってくらい見事なジュブナイルだよね~」
満面の笑顔のまま、愛想良し。
「ボーイミーツガールにして胸躍る冒険譚。うん、隙が無いね」
ハンサムも笑みをほほに残して言う。
「――でもさ~、当時は当たらなかったんだよねーラ〇ュタって」
別の意味での笑いを浮かべて言うのはメガネ。
「古き良き時代のまんが映画の良さがあって、俺はジ〇リの中じゃ一番好きだけどな」
仏頂面も、それを崩して言葉を綴る。
「作品の出来と興行成績は比例しないからな」
と、苦笑しつつ偉丈夫。
「だ~から、宣伝効果に頼って芸能人キャストに偏るようになったんだよな」
メガネが意地の悪そうな笑顔で続ける、
「芝居の質を落としてでも儲けを取る。なんと立派な商業主義!」
とても楽しそうに。
その言葉に、皆がもう一度大いに笑う。
「く~っくっ。それはそれとして、他に浮かぶものは?」
笑いを押し殺しながら、偉丈夫が言うと、
「それは天上の白き宝玉と呼ばれていた。天に浮かぶ宝玉を崇める者たちが現れ、怪しげな宗教がはびこりだす。それを信じぬ者は恐ろしい祟りに見舞われるという」
心得たとばかりに、メガネがアナウンサー口調のナレーション風に語りだす。
「民の平穏を願う為政者は、天上の宝玉の秘密を探るため、凄腕の諜報員を呼び寄せた! その名はっ」
メガネの意図をこれ以上なく読み取った愛想良しが、実に生き生きと続ける。
爽やかで、しかし自信に満ちた皆の声が揃い、高らかに告げるっ。
「赤〇、参上っ!」
今度は笑いではなく、楽しげな合唱が響き渡る♪
白い影が出てくる三番までフルコーラスで歌いきった男たち、やり遂げた顔が眩しい。
「二部の三種の神器パターンも使えるねぇ。実は古代の超兵器だった白き宝玉、起動に必要な三つのキーアイテムを巡る、敵味方入り乱れての大争奪戦っ。いやぁ、伊上勝先生は偉大だ」
言い出しっぺのメガネが感慨深げにうなづいている。
他の面子も同じ思いだと、緩く首を縦に振る。
「俺は冗談抜きで世界最高の娯楽作品だと思っている」
と、仏頂面。なぜか誇らしげ。
賛同こそすれ、反対の声を上げる者など、この場にいるはずもない。
「しかし、もう涼しい目も、優しいおじさんも、いないんだよなぁ……」
しんみりと偉丈夫。
皆の目に、うっすらと光るものが見えるのは幻か?
「そうそ、
ちょっとしんみりとした場の空気を換えるように、愛想良しがワザとらしく明るくそう言うと、
「ジェイビー? 美少年
仏頂面が真面目な顔して返す。
「ジャッ〇・バンコランじゃなくて、ボンドだよ、ジェー〇ズ・ボンド、ダブルオーセブン」
判って言ってるでしょ? とばかりに苦笑しつつ、愛想良しが正解を口にする。
「なるほど、"天上の白き宝玉" と、呼ばれる何か秘密を知るために、各国の諜報部員が暗躍し、丁々発止のやり取りを繰り広げる」
そんなハンサムの言葉を、メガネが受ける。
「世界規模の大騒ぎなにするものぞと、謎の美女としっぽりしつつも、ボンドが秘密兵器を駆使し大活躍、すべてを暴きエンディング」
車はやっぱり英国車、アストン・マーチンか、イヤイヤここは狙ってランド・ローバー辺りで。美女はやっぱり敵側だったり、味方の美女は殺されるんだな、とか 各々が勝手な事を言っていた。
「美少年殺しネタ使うとしたら、高貴な筋からの依頼で宝玉の謎を追うMIシックス。宝石と言えば常春の島マリネラ。嫌々ながらも派遣されるバンコラン」
ハンサムが魔〇峰夫先生の描く美形のような顔をして言う。
「当然のように絡んでくる殿下。あとはもうドタバタで、カッコよく〆てからクックロビン音頭だな」
「画面が目に浮かぶねー」
断言する偉丈夫の言葉に愛想良しが続く。
「宝玉をそのまま貴重な宝石として捉えれば、盗む守るって話も作れるな?」
と、仏頂面。
きらりとレンズを光らせて、食いつくメガネ。
「日本と欧州某王国の国交樹立記念式典が東京で開催される事となり、国宝の "天上の白き宝玉" も一般公開される。が、現在王国は内部に火種を抱えていて、反乱派が王族の命と国宝を狙っていた!」
「事態を重く見る国王派は、日本警察の警備、王国のSP以外の護衛を秘密裏に雇う」
メガネの基本設定の先を読んだのだろう、偉丈夫が展開させていく。
「日本・東京・新宿。そこには世界一のトラブルシューターが存在した。コールサインは……」
そこで区切った偉丈夫に、心得ているとばかりに皆で言葉をつなぐ。
「エックス・ワイ・ゼーット!」
どっと笑い。
「あれだね、美女が絡んで、もっこりして、ハンマーが飛んで」
「凄腕傭兵の喫茶店マスターまで巻き込まれて大銃撃戦」
楽しげに語るは愛想良しとハンサム。
「例のイントロが静かに流れる中、ポエミィな〆セリフが決まったところで止め画! そして引いてぇー、アスファルトをタイヤが傷つけていく!」
派手な身振り手振りをしながら、ゲッワィ! とメガネが締めた。
再びの、どっと笑い。
「完璧だねぇ」
「いやもう挟む口がない」
「万人が見たい都市狩人そのもの」
ハンサム、偉丈夫、愛想良しが、感心して口をそろえる。
「お約束やパターンは悪く言われることが多いが、俺はそんなことはないと思う」
淡々とだが真摯に仏頂面。
「先人たちが積み上げてきた結果があるからこそ、そこまで至った訳だから」
重みのあるその言葉に、同意するよううなづく面々。
「王道や様式美を嫌う連中のやってることって、大概が自己満足のオナニーなんだよな。テンプレ外した俺、カッコいいって自己陶酔に浸ってて。けどお話としては破綻してたりでさ」
思いっきり悪意たっぷりに語るメガネ。
「一体お前らどこ向いて作品作ってんだって話。ラーメン頼んでる客に同じ麺類だからってスパゲティ出してどうすんのよ」
口角が皮肉気な角度に歪んでいた。
「大衆が求めるのは安心感。期待を外さないで提供してくれることなんだよな」
偉丈夫の言葉に、
「印籠が出ないご老公見て喜ぶ層は、あんまりないよね」
苦笑気味に愛想良し。
「パターン崩しはたまにやるから効果がある、常時使ってたらそれはもう新しいパターン」
「テンプレ嫌いが実のところテンプレに毒されているとかね」
やれやれといった感じのハンサムに、悪い顔してメガネ。
「――お約束は美しいし、楽しいよな」
顔をあげ、言い切る仏頂面。
それぞれがらしい態度で賛同の意を表す。
「桜吹雪!」
唐突なメガネの言葉に、
「金さん!」
心得たとばかりに、愛想良しが打って響くように応える。
流れを察したハンサムが続け、
「俺の名前は引導代わり」
「長七郎」
不敵な笑みで偉丈夫が返す。
「めでてぇなっ」
「伝七~っ」
よよよぃと指を鳴らすポーズの仏頂面に、突っ込むはメガネ。
「世の顔を見忘れたかっ」
どや顔で笑いながらの愛想良し。
「八代将軍」
さらりと答えるハンサムの後ろで、メガネが "暴れん坊" と口パクしている。
「クジラ船っ」
「てめえらぁ、斬る!」
銛を投げる構えを取る偉丈夫に、楽しそうに仏頂面。
「命ゴマ、参上」
主演役者の独特な口調を真似するハンサム、
「若様!」
似てるねーと前置き入れつつ愛想良し。
「ジュワッ」
十字を組むメガネに「スペシウム」と答えるは仏頂面。
「パパパ、パー、パパー、パパパーパーパーパパーパー♪」
トランペットを吹くポーズでメロディを口ずさむ愛想良しに、
「おのれ、ゼロワンッ」
日本、いや世界で一番有名な悪役声優の声真似で返す偉丈夫。
スペシウム、ウルトラスラッシュ、シネラマショット、フォッグビームの一連のアクションを取るメガネへの返答は、ハンサムの左手首をつかんでから右手を前に突き出す構え。
「えー、そこはやっぱ、流星キックでしょ―?」
贅沢な事を言うメガネに、これは失礼と優雅に頭を下げるハンサムである。
「ルロロロロロ~」
仏頂面のセリフには、
「爆弾パ―ンチ!」
と、愛想良しが応えた。
「――だが、日本じゃあ二番目だ」
ヒーローの権化になり切って偉丈夫。
「ズ、バァーーット!」
残る四人が腕を横に広げる例の決めポーズで揃って返す。
高らかで楽し気な笑い声が、狭い部室いっぱいに響く。
「こーゆーのが無くなったら、味気ないよねー」
いい汗かいたとばかりにメガネ。
「変化球もいいが、それを活かすには基本の直球があってこそ」
と、仏頂面。
笑顔を交わす面々。
「じゃ、そこいらを踏まえて、"それは、天上の白き宝玉と呼ばれていた" ネタはあるかい?」
偉丈夫の煽るような、けれども楽し気な声音に、
「勿論」
と、自信たっぷりな声が返った。
映像文化研究部、本日も意気揚々である。
御題拝借! ~あるいは男子高校生たちのどこか偏っている部活風景~ シンカー・ワン @sinker
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
シンカー無芸帖外伝 カクヨム日月抄/シンカー・ワン
★20 エッセイ・ノンフィクション 完結済 23話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます