第5話 間借りの《妖精薬師》とキラキラな初調合問題
「貴様という奴は。バカバカしくも、大見え切った割とすぐにボロが出たな」
呆れた口調でも、ジョイさんの表情は穏やかな様子で、あたしに大きなため息を吐いた。あたしはいい返すことが出来ない。なぜなら――
「魔女アヌの薬局を間借りは出来ないのか? あそこなら俺も安心だ。ここに若い君だけがいる家なんか置く
「あるんですよ! ほんとうですよ! もう!」
頬を大きく膨らませたあたしも意地になって、とうとうといい返した。
ドルドゼの行動も早いもので魔女アヌへの一筆を書いて、ロロさんへといつの間にか手渡して、すぐに許可が出た。
「煩いわねぇ。貴方たちぃ」
魔女アヌの薬局。
調合場所であたしとジョイさんが言い合っていたところに、目を吊り上げた垂れ目のアララギさんが腕を組んで怒りの表情でやって来た。
「やっぱり。部屋を増やして分けましょう。何かあってからでは遅いから何か罠や経文陣を外や中に施すとして、はぁ~~やることが多すぎっ! もう! もううう! イヤだ、いやだったらっ!」
髭顎を指先で擦って吐き捨てる様子に、
「! ぁ、あたしなんかのためにっ、っご、ごめんなさい!」
あたしは謝った。ずっといるわけじゃないあたしなんかのために部屋を増やすだなんて。勿体ないしっ、申し訳がないっ!
「貴方、何か誤解しているわね」
「へ?」
「妻のために増やすのよ。貴方のためなんかじゃないわよ。自惚れないでちょうだい」
「はぁ……」
そうだよね。あたしなんかが同じ部屋にいたら邪魔だもんね。アヌさんも静かに調合したいよね。お仕事だもの。生活のためですものね。
「仕事のために、この部屋は妻と
ずかずかと足早に、どこかに行ってしまったアララギさん。
「おやおや。ディーニの奴がやり出すととことんし出すぞ。何か要望なんかがあれば私が伝えておくが?」
要望って。あたしは《妖精薬師》をお仕事にする気なんかないのに。部屋なんか作ってもらっちゃったら。
「あたしはここで調合し続けても、いいんでしょうか?」
「今更じゃないの? いいんじゃない? ディーニの奴も別室を作るってはりきってるし、アヌちゃんも嫌な顔してないしさ」
確かに、今も一緒の部屋で調合しているアヌさんは黙って作り続けている。あたしにも、アララギさんにも何も言わない。もくもくと作業を行っている。薬師のエキスパートだ。
(ここで何か、ごめんなさいとか。何か、話しを……うぅん。アヌさんはお仕事中だもの。声かけなんかご迷惑だね)
「ふぅ」
「それで、セシアは何を作る気なんだ?」
ふらりと髭のロロさんがあたしに聞く。
「ロロさん」
「暇人が来たか。どうしたんだ?」
髭のロロさんにジョイさんが悪態を吐いた。
「セシアがいるから《妖精霊》や《妖精魔属》が俺に聞こえるように嫌味をいうからムカっ腹なんだ。なんだってんだ。チキショウ」
どこからか持ってきた椅子をあたしの横に置いて、テーブルに頬杖をして目を閉じた。
「今までろくに《妖精王》の仕事をしなかったツケなんじゃないのか? ざまぁ~~ってもんだ」
「ジョイさん」
さすがにいい過ぎではと彼の名前を呼んだ。ジョイさんは目を宙で泳がせた。
「ジョイさんも。仕事は、大丈夫なんですか?」
「とっくに終わったさ。あとは急ぎのものなんかないから、余裕さ」
赤い舌を出してあっかんべぇとあたしに見せる。
ジョイさんの部屋はアヌさんの薬局内では異質だった。
巨大樹木の中の芯の箇所に巨大な蜘蛛の巣を張って、そこを自室と作業用と使い分けているから。蜘蛛の巣の場所からあたしに話しかけている。
逆に髭のロロさんの部屋は木の根の深い地下にあるの。
暗くて狭いところが落ち着くからだ、っていっていたわ。
「作りたい薬の調合は、こぉう、頭の中にはあるにはあるんです。でも、それをどうやって作ればいいのかが、あたしも困っていて……」
ふむふむ、と髭のロロさんも頷く。
「どういった塩梅の薬なのか教えてくれる?」
「はい。まずはドソル国王様の体調面を改善を目標にしたいところです。とくに咳がヒドイので喉なんかに効く薬の調合を。でも。ドソル国王様はあたしのような隔世遺伝者で《妖精魔属》よりの方です。なので人間に効くような薬の調合は無意味かと思っています」
あたしの話しを目をつぶって聞いている。
(寝ているのかな?)
「《妖精薬師》は如何なる妖精や
弱音を吐いても、寝ている誰かさんからの回答はない。と、思っていたのに――
「さぞ辛かったことだろう。人間ではない《妖精魔属》の隔世遺伝者は魔女の薬がいくら高く著名な女が調合したいからといって体質には一切、合わずに効かずに無駄金と終えていただろうからな」
髭のロロさんの目が見開かれる。
「しかし。本当に国王を健康にしてもいいのか?」
「! どうしてっ、ドルドゼと同じような心配をいわれるのですか!」
あたしは頬を大きく膨らませて怒った。
それに「健康になれば、……逃げられる場合があるだろう。ないとも言い切れないだろう? 逃避行する金なんかもあるとするなら。それに。例えば、後継者がすでにいるとなればさ」ジョイさんも腕を組んで口をへの字にいう。
どうしてそんなに疑うのか。
健康にすることに異を唱えるのか。
あたしの顔色に気づいたのか、ジョイさんが引きつった作り笑いをする。
「疑ってしまうなんて、私の悪い癖だな」
「いや。疑うことも大事なことだと思うがね。心理さ。まぁ、この娘さんはよしとしないようだから、もう悪い想像で、いい方向を連想させることを止めるような否定はいわないが。本当に国王なんかのために薬を作るんだな?」
髭のロロさんが改めてあたしに確認に聞く。
「はい!」
むんふ! と力強い返事をあたしがすると、2人の顔が無表情から苦笑に変わって、笑顔を浮かべて見合っていた。
からわかれているのかとあたしも「あたしはっ」といい返そうとしたら、
「まずは《咳》が先決か?」「いや。《体内》の毒素の浄化が先でいいんじゃないのか?」
ジョイさんと髭のロロさんが真剣な面持ちで、一番最初に処方するべき薬の話しをし合い始めている。あたしは何往復と2人の討論を見聞きをしていたら首が痛くなってしまう。あたたぁ~~……
「まずは《咳》から。国王陛下様と女王陛下様へと薬の調合でしょうか。国王陛下様が治られても、女王陛下様からの咳により、再度と感染されるかもしれませんし。そうはならないとは、決して《病》にはあり得なくはないものです。ぶり返しなどあってはなりません。一番最初こそが肝心です。《妖精薬師》が薬の調合の失敗をするのは確率的には0%。今の時代の民草たちにとって《妖精薬師》は神話に近いのです。神に等しい《妖精薬師》が患者の病気と薬を見誤っては言語道断。最悪な事態になりかねません。あたしの薬局に間借りしている以上は――迷惑を被るのは勘弁ですよ。王太子妃様」
魔女アヌ様が「ぇえ」あたしに助言のように話された。饒舌な上に早口で聞き取れない言葉もあったけど、咳止めの薬を調合してはどうか、ってことよね。さすがです! お姉さまっ!
「「《咳止めの薬》の調合か」」
ジョイさんは、だろうなぁ! とふふんな顔をして、髭のロロさんは口をへの字に曲げて目を閉ざした。兄弟対決の結果は、兄であるジョイさんが勝った格好なのかもしれない。
「あたしはまず。《咳止めの薬》の調合を行えばいいんですね! お姉さまっ!」
椅子から立ち上がったあたしは、お姉さまに叫び聞いた。
「っか、勘違いをしないで。あたしならそうするって話しなんだから」
手の調合も止めずにお姉さまはあたしに応えてくれた。本当にいい魔女様だ。
「あたしもそうします! お姉さまっ!」
ぎぎぎ、とお姉さまの顔が振り向いた。
「ぉねっ、おおお、おねっ?」
大きな目が見開かれて、目尻や頬も耳まで真っ赤だ。
「お姉さまの助言に感謝を申し上げます」
「は、ぃ」とお姉さまは正面へと向き直して調合を行う。
やるべき最初の薬の調合が決まった。
(ドルドゼ。あたし、がんばるからね!)
世界中の誰の周りを、妖精たちはキラキラと飛んで輝いている。あたしの周りにも、ドルドゼの周りにも、ジョイさんや髭のロロさんの周りにだって。
ドソル国王とミファ王妃にも、同様にだ。
キラキラキラ――……と妖精たちが見聞きしたことをあたしに教えてくれた。
「っごっふぉおおぅっぼぉううヴぉあ!」
「こっこここぉオオっぶオぉおおァああア!」
ただ、教えてくれたのは全てが終えたときで、あんなことが起こるだなんて。正直、信じられなくて、また別の機会のお話しになってしまうの。
①:咳止めの薬編 初めての薬の調合
パラ、パラパラ。あたしが視ているのはドルドゼにお願いして、入手をしてもらった門外不出のカルテ。患者名はドソル国王とミファ王妃のお2人。
「健康、そのもの」
なんの影もないきれいな体内写真。かかりつけ医の見解も「健康」の文字が複数回とあって「精神的不安定が問題?」と奔り書きもあった。
「精神的不安定、……国王様も隔世遺伝にしても、人間ですからね」
あたしは小さくボヤいた。
「じゃあ。みんなっ、咳止めの薬を教えてっ!」
両手を大きく広げて妖精霊にお願いをした。
《妖精薬師》は妖精霊たちの話しを聞いて、薬の調合をして、薬草を集めることも《妖精霊》にお願いをする。
「女王はすごい。王は全くと動かないのに」
「やめて! やァめてぇ! 女王なんて!」
ぶんぶんとあたしは手を被り振った。
あたしを女王と呼ぶのは《妖精魔属》の中で髭のロロさんの身の回りのことや、他の妖精霊からの話しの聞き役のゴートさん。
全身真っ白で二メートルの身長は、髭のロロさんぐらいあって黒いコートを羽織っている。基本は真っ裸の妖精魔属には珍しいインテリだと思う。髪もきちんと櫛で梳かしていて、一切の乱れもないんだから。
「ボクたちにとってあなたは女王陛下だ。《妖精薬師》も魔法使いの世界同様に女性が就く。最高位であるあなたに仕えることがボクたちの仕事であり、幸せだと認識をして欲しい。なんせ、王は仕事を丸投げで仕事を成さない。しかし、こうして女王の前でどかりと腰を据えている。なんと、有難いことか心変わりにも期待をしているのだ。ボクたちも」
しみじみと語るゴートさんの横には、眉間に深くしわをよせる髭のロロさんがいることを承知に、本人の目の前で悪口を言い放っていた。
「きちんと仕事をこなしてくださいよ。ロロさんも」
「俺なんかよりもゴートが間を取り成せば解決する問題ばかりだ。《妖精王》も出生は人間なんだよ。人間っ!」
悪足掻きに見えない髭のロロさんの態度にゴートさんも、小さく息を吐いた。
「幼稚な《妖精王》は置いて置こう。まずは女王が望む《咳止めの薬》の調合に適した薬草を、皆の者、話すと言いい」
ゴートさんは本当に聞き役に徹してくれる。なんて心強いんだろう。彼を嫌い話さない妖精霊もいない、キラキラキラと次から次に教えてくれる。
「ふんっ!」
終始。髭のロロさんは腕を組んで不機嫌だった。
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