第3話 《妖精王》とギラギラな家族
あたしとドルドゼの結婚披露宴は小規模なものにした。
あたしの《妖精魔属》なり《妖精薬師》という、妖精を従える人間の女ということと、最大の問題視されたのが――
「王太子様のご趣味なのか」
「ああ。一体、幾つなのだね、お嬢さんは」
「魔女、ではないみたいですけどぉ」
「「「「可愛い! 幼女っっっっ! 合っっっっ法ロリっっっっっ!」」」
12歳であることだった。
栄養不足もあってあたしは大人としての膨らみはなく、身長も全くと伸びず、細身で肌も真っ白なのに、髪は濃い赤毛で目が薄い水色といった変わった容姿。少女というよりも、あたしは幼女に見えるらしい。対して。王太子であるドルドゼは――23歳の女装癖の青年だと知るのは、極々の僅かであったため、
「「「幼女のためにっ! 国に何が遭っても守るぞぉうう!」」」
居合せた誰もが、鼻息も荒く、ドルドゼを睨んで歯を剥き出しに、手には、場に相応しくもない武器がきらりと鈍く輝いていた。
ドルドゼも苦虫で顔を引きつかせて、生きた心地をしなかったみたい。
「一気にみんなが君のファンになったようだね。悔しいけど、……アイドル的な君のNO1は俺だ。愉悦に身震いをしてしまうよ」
「……ちょっと。何をいっているのかわからないけど。喜ぶべき告白なのかな? 今のは」
「どうとでも」とドルドゼは歓声に応じるように、満面の笑顔で、腕を高らかに、宙へと伸ばして大きく振った。
「ちゃんと話してくれないとあたし、……馬鹿だからわからないよ」
あたしは不安を口にした。年上の彼の考えは、あたしには理解が出来ないし、不安でしかないのよ。この先も、どうなるのかなんかも、わからないんだから。キラキラと周りの妖精たちは「大丈夫」って言葉をくれる。なんて頼もしいの。
「君を守れるのは俺だけだが。逆に。もしも、俺に何かあった場合でも、同じだ。君だけが俺を、国を、守れるんだ。頼んだよ」
「! っは、はぃ!」
「ふふふ。ああ。それと、
あたしを見つめて聞くドルドゼに「ぁ、たりまえじゃないっ!」なんてか弱く吠えた。子犬のようなあたしにドルドゼも満面の笑顔で「よかった」って頷いた。
なんてやりとりを忘れていたあたしの目の前に、ドソル国王とミファ王妃がにこやかに椅子に腰かけていた。
場所は、まさかのドルドゼの部屋。まさかまさかの来てくれたの状況に、あたしは身体も強張ったまま、立ち竦んでしまっていた。
声も出せないあたしにドルドゼが「国王たちだよ」って雑にも程のある自己紹介をしてくれた。信じられない! あり得ないでしょう!
あなたにとっていつもの顔ぶれの家族であっても、あたしは、結婚披露宴でも会釈程度しかしていないのよっ、大したお話しも出来なかったしっ、こうして面と面を向かってお二人と今日会うなんてっ、聞いていないよっ!
あたしの頭が怒りと困惑にぐしゃぐしゃだ。
「っぐぅがァあっはっはっは! っごふぁああァああ!」
ドソル国王は開口一番に咳き込みだった。
あたしはびっくりした。
横目でドルドゼを見れば苦虫だった。ああ、いつも。こうなのか。あたしも察した。
続いて。ミファ王妃も口を開けば――
「げっぼぉおおぅうう! でっぼおおぉおおううう!」
言葉なんかではない咳き込み。
唾液が霧のように辺りを輝かせる。
あたしはまたドルドゼを横目で伺う。
目を閉じている。何も聞かないでとばかりだ。
またもや、あたしは察した。
(えぇええ? じゃあ、どうやって公務をしているの? 何? 魔法か何かで一時的に話せるの? ええ? でも待って? 国王様たちが話しているところはみたことないけど、大きな咳込みは結婚でも響いていた、けど。ひょっとして、まさか……)
それなんかが出来るのなら、今、この瞬間でも使っているであろう。しないということであれば、
(執談か。何かかもしれないけど)
状況的に、このままではダメだとあたしは唇を噛み締めた。
今までに感じたことのない使命感が
2人も、きちんと話せたらと。幾ときも、きっとずっと考え馳せただろうと。治癒が可能であれば。少しずつでも話すことが出来るようになれば、国王は職務をこなしてくれて、ドルドゼだって、もう少しは王太子の時間が長くなって仕事量も減って、あたしともう少しは寄り添って、美味しいものを食べに行くことが可能になるはずね!
「っぼぉおおぅうう! だっばァああ!」
「あの。国王様、無理に話されなくとも……よろしいですので」
口から噴き出る唾液の霧。
あたしも手を差し出して見せる。それにはドソル国王も、困った眉毛が、さらに垂れてしまって、涙目に変わってしまう。口もへの字だ。
まるであたしは悪女のようだろう。国王に黙れといっているんだから。
椅子の上で縮こまったドソル国王の代わりに、
「ぼぉおおっほぉうぅうう!」
ミファ王妃も大きく唇を開けて唾液の霧を吹き出した。
似たモノ夫婦。決して悪いことなんかじゃない。
だけど。お願いだから。
「王妃様もお口を閉ざして頂けますか? 申し訳ありません。唾が舞い飛びますので」
ついには、肩を揺らして微かに咳き込む音しか居室内には、聞こえなくなった。
「それで。我が妃は、この状況をどうするつもりかな」
ドルドゼがあたしに聞いた。
腕を組み苦笑いをして。
「ドルドゼ。許可が欲しいです」
「? 何の許可をさ」
首を傾げる彼にあたしは思い切って切り出した。
ここでブレてはダメだ。周りのキラキラとした妖精も、あたしの背中を押してくれる。
「《妖精薬師》として薬草を調合する許可を」
真っ直ぐに見据えるあたしにドルドゼも顎に手を置いて悩んでいる。そりゃあそうだよ。《妖精霊》はよくないもの。災いと疫を招き、よくないものを抱かせる。王太子の妻が《妖》であって、さらに《妖精薬師》になれば、隣国なんかが脅威と畏怖し、何を起こされるか、わかったものではない。厄介ごとの火種になりかねない。重々と承知だ。でも。許可さえあれば――治せるかもしれない。ドルドゼも、仕事量が少しは減って、お義父様のお手伝いが女装をして出来るっ!
あたしはっ、あなたのために調合をしたいの!
「っがっばァあおぉっぼぉおおううう!」
「いえ。国王様、諦めたらいけません。治せるのなら直した方がよろしいですわ。即効性ではなく時間はかかるにしろです」
「っぽごぼぼぼぉおおぅうう!」
「后妃様。ご協力をしてくれるとのことありがとうございます。あたしも、あたしにしか出来ない仕事が出来て感激にございますわ。ですので。お口を閉じて頂いてもよろしいでしょうか。唾が舞いますので」
咳する2人と会話をするあたしに「すっごいなぁ。妖精さんの力か何かかな? 会話しちゃってるじゃんか」複雑な顔でドルドゼも肩を竦ませる。
「それで! 許可は出して頂けますか!?」
ふんぬ! と鼻息を荒くしてあたしはドルドゼに改めて言い寄る。
「あのね。許可は人間の俺が出すとかじゃないの。いるだろう。その役目に当てはまる奴が。奴に息巻いたまま押しかけて懇願を吐けば――ぶっちゃけ、許可なんかすぐじゃないか? 奴ってば。セシアにぶっちゃけと甘いから」
髭のロロさんとドルドゼは、あたしの救出時に初めて顔を合わせた。それからは髭のロロさんがどういう訳か、あたしの教育係なんかし出したりと、しょっちゅう来るようになった。理由を口にすることはないけど、何か特別な事情があるのかもしれない。
「ダメだ」
「! なぁああんっでぇええ!」
「ダメったらダメ。マジのマジで許可なんか出せんから」
「ろぉおおっろぉおおぉおおっさぁあああンんん!」
あたしは地団駄を踏む。
場所はジャミンの森の魔女アヌの薬局の木の中。
結婚の記念品で《ダイヤルM標識》というドアにひっかけて、色のボタンを押すと自由自在に行き来が可能な便利な魔具をもらっているから、秒で尋ねにいけるの。これは魔法使いたちしか持っていない貴重品らしい。
訪ねて来たのは、今回で2回目。
誰が他に住んでいるのか。だとか。髭のロロさんの立場だとかが少しは分かっているあたしは、わざと声を大きく張り上げて困っている、と周りに知らせた。協力者を募るために、仕方がなかったの。
「声が大きいっ! 馬鹿野郎っ!」
「だってぇええ! ロロさんがいいいぃじわるいこというぅううかっらぁああ!」
「だからっ! 声がだ――」
髭のロロさんの語尾に「うるさいわねぇ」と声が重なった。
最大の協力者になれる人が来てくれた。
魔女アヌの旦那様。
アララギさんだ。
「セシアちゃん。少し、落ち着きなさい。妻も、今がとても依頼された薬の調合が大事なところで気が立っているのよ。騒がれると困るわ」
前のときは歓迎的なにこやかな表情なのに、今日は眉間にしわが寄っている、不味いわ。とても不機嫌! 今日はダメな日だったのねっ。口添えなんかしてもらえないわっ!
「状況を察するところ」
「……隔世遺伝にしろ。この娘は人間。しかも、王太子妃だ」
「だから。《妖精薬師》の許可が出せないと?」
「当然だろう」
アララギさんの口から大きなため息が漏れた。
「馬鹿ねぇ」
「何がだよ! もぅ!」
髭のロロさんとアララギさんは二卵性の双子。アララギさんがお兄さんだ。だから、髭のロロさんは居候という立場もあって、アララギさんには頭が上がらないみたいなんだ。
「《妖精薬師》が今の時代にはどれくらい貴重か、無形造的国宝に値するかを考えた上で許可なんか出せないって、ロロちゃんの小さな頭と脳じゃあ深く考えていないんじゃないの? どうなのよ、ロロ。人間に近い《妖》でもあるでしょう、彼女は外と違う。希少種は管理が必須でしょう。《妖精王》?」
「ぁ、危ない、だろう? ぉ。俺だってきちんと考えているっ! 若い、この子に何かあったらっ、あったらっ……俺は《妖精王》になったことを呪ってしまう……俺は、あンたを。ディにぃを恨んでしまうっ! だからっ、許可なんか出すことなんかしたくない! 絶っっっっ対に出さないっ!」
ついには髭のロロさんが号泣をしてしまう。ああ。ごめんなさいっ。
「許可、出せば。私が責任を負おう」
「ジョイ。どうしたのよ、出しゃばって来ちゃって」
「
兄弟の中で唯一、髭のない男の人。長男のジョイさん。右鼻の魔石ピアスが光っている。
「ジョイさん」
「《妖精薬師》になりたいんだろう?」
「はい!」
「いいお返事だな。うおぉい、サンドロ」
髭のロロさんの身体が名前に反応してビクついた。
「でもでもでもでも……」といい続ける様子に「うっざ」とジョイさんも舌打ちをしていた。
「「《妖精王》!
ジョイさんとアララギさんの声が重なる。
それでも髭のロロさんの腰は重い。顔も重くて持ち上がらないみたい。
でも、それもこれも全部はあたしのためなのね。
あたしに何かが起こったらという、恐怖からなのね。なんて、優しいのかしら。
「ロロさん。あたしは身勝手なのは十二分に承知です。でも、あたしがしたいのは、病気の治癒の協力なんです。国王様と王妃様は、話すこともままならない病弱体質で、実子もいなくてドルドゼが養子になったほどに、目の前の先が真っ暗なのです。その先の光りをお見せしたくて、ドルドゼも肩の荷が下りるように、まだ公務もないあたしが出来ることをして差し上げたいだけなんです。だから、お願いします! 一生に一度のお願いですからつ! あたしに許可をください!」
深くお辞儀をしたから髭のロロさんの顔は見えない。
「ロロぉおぅうう?」
「ロロちゃん」
お兄さんたちも名前を呼ぶ。
あたしも名前を呼んだ。
「サンドロ・ゾロ=ダ・カポネ妖精王様っ」
むくりと髭のロロさんは涙を流したまま起き上がった。
「分かったよ、……君の慈愛に免じよう。ジョにぃも協力を惜しまないって言ってたし? ねぇええ??」
「ああ。協力をしよう。出来る範囲でな!」
「あら。腰が引けたみたいね」
「うっせぇよ。馬鹿野郎」
正直な話し。あたしは安心したの。
まさかジョイさんがあたしに協力を惜しまないっていってくれるなんて。心強いなんてものじゃないわ。神にも悪魔にも愛される彼が、なんだから。
「じゃあ。
見届けてくれたアララギさんは、大きく背伸びをして、戻って行った。
残されたのはあたしたちの3人だけ。
「暇者同士って、一体、どうゆうことですか?」
「「
「言っとくが。私は個人事業主で《闇祓い》とか小規模で常連の顧客も少しいるし小遣い稼ぎで家賃は手渡している。完全無職はそこの《妖精王》だけだからな!」
ジョイさんがしれっと言った言葉にあたしは絶句をした。完全無職って何、ってね。
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