第2話 キラキラと結婚披露宴
「はぁ」
ドルドゼと《妖精王》のロロさんに救出されたあたしは教会ではなく、激高した髭のロロさんの口添えも合って、念のためと病院へと行くことになった。
そこでの診察は、当然のことながら――……
「うん。ひっどい栄養失調に脱水、あとは打撲痕。まぁ。これは治りかけているかな。誰にやられたの? 複数個所だよ、複数個所。なんで、緊急入院の、超安静必須ね。……結婚するから披露宴? あのねぇ? 王太子様。この
病院には1か月と入院と、さらには2か月の間、ベッドの上で療養をした。個室の大きな部屋にあたしは眩暈が起こったのはいうまでもない。どうして、こんな状況なのかと毎日考えていた。
ドルドゼは毎日欠かさずとお見舞いに来た。髭のロロさんは、夜中にこっそりと妖精を使ってあたしをお見舞いに来て、膨大な資料でお城、王族、国なんかの話しをあたしにした。王太子妃教育と、冗談なのか本気なのか分からないけど。あたしのためにしてくれていた。
「ロロさんは、あたしの、……パパですか?」
あたしの質問に髭のロロさんが眉を顰めた。
「阿呆。ぅんな訳あるか。俺は不能だぞ。何なら見せたろか。つるつるだぞ、股間が。人形のようにな」
言葉の意味があたしには理解が出来なかった。普通がまず分からないの。どういう状態なの股間が。
「ふ、のう?? っつ、つるつる??」
「元々。妖精には生殖器なんかないからな、必然的に《妖精王》になった俺もそうなっちまってね。兄貴のせいでな。だから悪いが、あンたの父親は他にいる、なんなら探そうか? 会いたいってんならの話しだがね」
あたしの前で下を脱ごうとする彼に言い留めた。
「ゃ、……いぃです」
「あっそ。じゃあ、勉強の続きを」
髭のロロさんが本を開いたときに、あたしは自然に、聞きたかったことを口にしてしまう。
「なら。どうして、こんな時間まであたしなんかのために、……勉強までしてくれるんですか?」
血も何も繋がっていないのなら、どうして、ここまであたしに入れ込むような真似をしてくれるのかが、あたしには分からないの。
「あンたは《妖精薬師》だ。こちら側の人間を突き放すなんて可哀想な真似なんかしないさ。ああ。《妖精薬師》の説明をしょう」
***
《妖精薬師》――
語るまでもなく、人間に興味を持ち、恋し愛し合う者も、自然な流れの中で出て来る。
人間と妖精魔属の婚姻は人間と変わらないのだが。
子どもの作り方は異なっている。
人間が女性なら相手の妖精魔属は、自身の一部を膣に入れて苗床をつくり、妖精霊に近い存在である子どもである《妖》を生ませるのだが、大概は女性の身体がもたずに、母子ともに死ぬことが多々と在った。妖が産まれても、人間になれずに死ぬことも在った。一度、産むと膣は腐り二度と産むことは出来ない身体になったと伝承に聞く。それもあり、女性と妖精魔属は子どもを作らず、女性が死ぬまで寄り添う夫婦が多かったようだな。
人間が男で相手が妖精魔属であれば、男を喰い体内に取り込み妖を孕んだ。ただ、産まれるのに3年以上とかかり負担も多かったようだ。身重になり動くこともままならず、他の妖精たちの協力も必要不可欠だった。
だが。こちらの方が妖を産むことが可能だった。人間でも妖精魔属でもない半端な子どもたちには魔力もあり、長寿属の《第3の種属》と名乗った。希少種――《妖》には魔力があることで薬師の資格を得られた。同属の血統でもある妖精たちからの協力も得られ、洗礼された純魔力の薬は魔女たち同等、いや、それよりも遙かに優れた治療薬であったがために、幾度と魔法使いたちと血生臭い戦が繰り返され、
しかし。《妖精魔属》の中には、すでに人間との子作り問題にも適応したのもいたとされ、たまに、隔世遺伝と純血種が人間から産まれることも、多々と報告を受けていたよ。地上数多といる見えない妖精が先に気づくんだ。
***
「そう、あンたが《妖》だ。おそらくは後者となる《妖精魔属》との遠い血縁の隔世遺伝だろう。妖精の話しを聞き、優れた薬を調合可能な《妖》であり、生業を《妖精薬師》の末裔だ」
あたしの口があんぐりと閉じられなくなった。
あたしが、《妖精魔属》の血筋で《妖》? 《妖精薬師》の末裔?
人間じゃないってことなの?
「どこまで人間と違うとかじゃない。考えるべきはそこじゃない。あンたが思い浮かべるべきなのは将来における未来予想図だ。楽しく、どう在るべきなのかを、ドルドゼとの結婚を踏まえて、地面に足をつけて考えるんだよ」
髭のロロさんが優しくあたしにいう。
どうするべきなのか、あたしは戸惑っている。
それでも時間はあっという間に過ぎて、ついには来てしまった。
結婚披露宴が。
セシア=ボルボは王太子妃になってしまう。
女装癖のあるドルドゼも、この日ばかりは男前な新郎姿で眩しかった。それに比べて。全くと華のないあたしは着飾った子どものようだったに違いない。場違いも甚だしかっただろうなぁ。
重いドレスや豪華なネックレスや指輪。
なんて不釣り合いなのかと、どうしてあたしなんかが教会で一緒に歩いてなんかいるのか、今更と、ここから逃げちゃおうかなって想い始めていたのだけど。
「セシア」
「はぃ」
「愛してるよ」
「どぅして。あたしを?」
「女装癖の俺を拒まないし、ご飯をおいしく食べてくれた顔が、ものすごく可愛かったからだよ」
女装する男の人なんか見たことなんかなかったし。美しくて、そんな女性らしい人を、まさかの男だなんて気づくことなんか出来ないよ。
それにドルドゼの話しを髭のロロさんからも聞いて、少し、同情をしてしまって、傍で支えてみようかな、なんて思ってしまった。
「セシアと一緒にご飯を食べて、一緒に外を歩きたかったんだ。今のようにさ」
「ドルドゼ」
「愛してるよ」
「ぁりがとう」
《食事処の女装癖の息子のドルドゼ》――彼の母親は派手な人で娼婦でもあった。その顧客で彼女を見初めたのが、当時の王太子だったドファン。寝ても醒めても、頭の中は彼女のことばかり。歳の差は20歳。若いドファンは肉欲に溺れた訳だ。押しの強いドファンに彼女も折れて、ついには王族から離れて庶民となり結婚をし、2年後に彼女は彼を身籠った。しかし、彼女は彼が3歳のときに蒸発をした。風の噂では、ドファンから逃げたとか、昔の顧客に殺されたとか。
庶民になった
彼は産まれながらに王太子だった訳じゃない。
ドファンの飲食業である稼業を継ぐつもりだった。客引きの為に母親のような派手で、目を引くような女装をして店を盛り上げていたんだ。父親の為に、いつか戻るであろうと待ち侘びた母親が、帰って来られる場所を失くさない為に、身を削り生きていたんだよ。
「他に、……好きだった女の子は、ぃなかったの?」
「何それ? 今、訊くの? その
「ぁ、あ、……ぅん」
「どんな女の人も。全部、お袋のように見えちゃって、萎えちゃうんだ。でも。セシアはさ、お袋とは全くと真逆で、質素で大食いでさ。でも。セシアはさ、とてもキラキラと輝いていて、可愛くて、傍に置いて置きたくて、……独占欲の塊って思われてもしょうがないけど。他の誰のモノにもなって欲しくなくて、別れてからも頭は、セシアの大食い顔が離れなくて、探していた。食う場所なんかを重点的に。でも見つからなくて、とても歯痒くて、悲しくて。そんなときに、ロロさんが俺を尋ねて来た。セシアの話しを聞いて、胸がざわついて。俺はロロさんと足の速い馬に乗って、
キラキラしていたのは妖精だ。
あたしが輝いていた訳じゃない。
でも。あの少しの出会いを、ずっと、……あたしのことで頭がいっぱいだったって。嬉しい。うん、嬉しい。大食いキャラにされてしまったけど、あたしは普段は小食なのよね。胃が、小さくなってしまっていて。
「君は自由だよ」
「ぇ」
「今まで不自由だった分。俺がセシアを支える。他の誰も、何を言わさないように公務もこなすつもりだ。叔父さんとも、その約束で王太子になったからさ。好きなように自由に俺を振り回して、したいように生きて、俺と一緒にご飯を食べよう」
どうしよう。嬉しい。胸が苦しい。
でも、どうしょう。
「あたし。今の王様と同じ――《妖》で《妖精薬師》の末裔なの。だから、ぁ、あの……ここここ、子作りとか、じじじじ、自信わわわわっ」
「ごめん」
「ぇ」
「実は、……髪の毛を摂取して、ある機関で調べてもらった」
「え」
バクバクバクバク――……心臓が高らかに鳴る。
結果はどうだったのだろう。もしも、やっぱり生殖器がありませんとなったら、この結婚は破談になるんだろうなぁ。あたしの脚が止まって、棒立ちして立ち竦んでしまう。でも。それは数秒間の出来事だ。
「確かに、隔世遺伝であることに間違いなかったけど、子どもを産める、健康的な女性であると結果に出た。……ああ。つまりは。君は人間の女の子で、何も後ろめたい想いなんかで、心を病むことはしなくていいという、吉報という話しだよ」
ゆっくりと引っ張るドルドゼの腕に、あたしの脚も、一歩と歩き出した。
「つまりは超越した存在に等しい種属。まぁ、難しい話しはよそう。君は俺の妃であることに変わりはない。一生、愛し続けると誓うよ」
「ドルドゼ」
あたしは幸せ者だ。こんなにも、一気に、訳も分からない幸せを得てしまって、どうしたらいいんだろう。
こんなに気立ても顔も、性格に難もない(女装癖に目をつぶっても)、いい男性があたしなんかを心底惚れていると、愛していると真剣な面持ちでいってくれる。あたしを真正面から見つめても笑わない男の人なんかと話したのも、出会ったのも、助けられたのも、全てが――産まれて初めてよ。
初めて見初めた、あの日からあたしは、ドルドゼのことで頭がいっぱいで、いっぱいで、いっぱいで。
「あたしも」
「ん?」
「ぁたしも」
「んんぅ?」
あたしとドルドゼが向かい合う。
身長差がかなりあるから顔を上にやって、首も痛くなってしまう。
「何かな? セシア」
「愛してるっ」
「ふふふ」
ドルドゼはあたしの前で片膝をついた。
「そうでなければ困るよ。俺の妃よ」
ベールが上げられ、眩しい舞台の上であたしたちは誓いのキスを交わした。
教会の鐘が高らかに鳴り響いた。
地面や宙を大きく揺らして、あたしたちを祝福をしてくれたの。
「はぁ」
机の上に置かれた本の列の高さに長さ。
重要な書類が机の上に置かれて、目を通して名前を書いて行く彼の様子に、あたしはため息を吐いた。
「あまりため息は止しなさい。幸せが逃げるというよ」
出会ったときのように万全な化粧に上質なドレスの容姿のドルドゼが苦笑してあたしにいう。誰とも会わない公務以外は彼は女装をするみたいだ。
「まだ国王様もご存命なのに。王太子でも、そこまで毎日と仕事をさせられるものなんですか?」
「馬鹿か。王太子の間に顔を、名前を他国に売り報せる外交こそが重要なんだぞ」と横から口を挟むのは――髭のロロさん。
「ご存命にしろ。何があるかなぞ、誰も神も仏なんかも知るはずがないだろう、とうちの兄貴もよくいっているぞ」
ホトケとは一体、何なのかは知らないけど「大丈夫なら。お義父様のお店を手伝いましょうよ。今なんかは観光客で大繁盛だとお聞きしますよ」お城なんかに籠っているよりは、よっぽど伸び伸びと生活が可能な場所に、あたしは行きたかった。
「退屈なのだね。分かった、机の上が片付き次第、父さんに会いに行こう。そして、美味しいものを食べさせてもらおうか」
「はい!」
何気ない会話の三日後。
ドソル国王と会う機会があり、そこでやってしまったことによってあたしの名前が広く轟き、後世までドルドゼの功績を覆い隠す――《聖王后》と名を残してしまうなんて……思いもしないじゃない?
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