川の主
夏伐
主釣り
私の趣味は釣りだ。
休みのたびに川釣りスポットに行っていた。その頃は釣りスキルも上がって私は調子に乗っていたのだと思う。
だからローンを組んで高い釣竿を買った。
しかし川に到着し、いざ釣ろうとした一瞬のうちに釣竿とルアーがなくなっていた。
まだ支払いも残っているのに!
血眼になって犯人を探したが、人影すら見当たらない。
結局見つからず、その日は家に帰ることにした。
どうしても諦められない。
一目ぼれしてようやく買う決心がついたものだったから諦めろという方が無理だ。
その日から休みの度にその川に来る釣り人に聞き込み調査を行った。ほとんどが顔見知りだ。その人たちがみんなが同じようなことを言う。
「そりゃ川の主に取られたんだな」
主……?
じゃあ余計人のもん盗るなよ……。
1%でも確率があるのならオカルトでもなんでも構わない。ひとまず、通りすがりの老人に主と消えた釣り竿について聞くことにした。
釣り竿についての情報は得られなかったが、主についての情報は得られた。
その老人も釣り竿は川の主が持っていったという。
「サツマイモ持って川沿い歩いてたら出てくるよ」
「サツマイモ? 釣り竿は……」
「あー、諦めた方が良いねぇ……」
犯人の聞き込み調査も芳しくない。どうせなので主探しも行うことにした。
次の休み、両手にサツマイモを持って川沿いを散歩した。我ながらアホみたいな光景だったと思う。
しかし効果はすぐにあらわれた。
後ろを何かがついてくる。
ぺたぺた。ぴちょん。
ぺたぺた。ぴちょん。
私は振り向いた。
何もいない。
だが、後ろにてんてんと水たまりと足跡が続いてる。
足跡には水かきがついていた。
生き物はいないが、横の草むらに私の釣り竿が揺れているのを見た。
「私の釣り竿!!」
瞬間、とんでもない勢いで草むらを釣り竿が走る。川に向かっている。
追いかけたが、捕まえることはできなかった。
「た、高かったのに……」
オカルト世界の生き物なんて警察の管轄外に決まってる……。
泣き寝入りしか出来ないのか……、私はやけくそでサツマイモを川に全力投球した。
びちゃん。
足元で水音がした。
見ると私のすぐ近くにびちゃびちゃの宝くじがおいてある。
釣り竿代ということか。
忌々しいとは思いつつも宝くじの交換期限が迫っていたので、すぐに宝くじ売り場に向かった。
――宝くじは当たっていた。
300円の当たりくじ。
サツマイモ代だってか!?
それ以来、私はローンを組むことは辞めた。釣り竿の盗難届は出したものの、全然解決しなかった。そりゃそうだ、オカルト世界に法律なんか存在しない。
今、私は百均の釣り竿の先にサツマイモをくくりつけてあの川に通っている。
釣り竿を取り戻すことは諦めた、だがあの主に一発くらわせてやらねば気が済まない!
川の主 夏伐 @brs83875an
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