第21話 エルミアと模擬戦

「私を勝たせるだと? お前に何ができる?」


「それはお前次第だな。ただ、俺が……ブラッディギアス家がどういう家系か知らんお前たちではないだろう?」


 ブラッディギアス家が闇神の加護を得た。これは王国に報告していることだ。


 故に王国と密接に繋がっている神教もそれは理解している。神教ではブラッディギアス家が邪教の神から加護を授かっているみたいなことになっているだろう。


「闇神という邪教に手を染めた家系……。私は認めていない。邪教の存在を!!」


「だが王国はそれを罰してはいない。俺たちが真に許されざる存在ならば、俺はここにいないからな」


「……ぐ、確かにそうだが……!」


 闇神や邪神、破壊神が邪教と呼ばれているのは、その性質、加護を与えられたことで得られる力故だ。


 神教はそれにおひれをつけて、供物として孤児を捧げているとか、何かを破壊するとか、そういうことを信者たちに言っている。


 エルミアは純粋で模範的な神教の信者。神教の教義を疑うことなく、邪教を忌み嫌い、神教を崇めている。


 そんな神教への信頼を少しずつ壊して、俺への信頼にすり替えていく。これはそのための一歩だ。


「……人を操ったり、幻覚を見せたり、お前がやろうとしているのはそういった戦い方だろう!?

 私の騎士道精神に反する戦い方だ……! お前の力を借りることなんて絶対にない!」


「人の戦い方を勝手に決めるとは、それはそれは立派な騎士道精神もあったものだな」


 まあ否定はしないけど。実際そういうのは俺とニュクスの得意分野だし、実際今もありとあらゆるところで傀儡化した俺の操り人形たちが動いているわけだし……。


「それにお前の騎士道精神とやらで、主人のレイラの期待を裏切るのか? お前自身理解しているんじゃないか? 努力では覆せない才能の差というものを」


「そ、それ……は」


 少しずつエルミアの様子が揺らぐ。言葉で相手の心理を崩す。これこそ俺が思い描く悪役というものだ。


「今回だけでいい。俺のことを信じるのは。俺と合わせるのは。交流戦が終われば、お前が俺にどんな態度を取るかはお前の自由だ」


「……それで私は強くなれるというのか? 私は勝てるのか?」


「それはお前次第だな。お前が俺をどこまで信じられるかだ。だが俺は負ける気はない。勝負する以上、誰にもな」


 誰かに負けるようなラインハルトは見たくないからな。俺は自分が勝つためならどんなことだってしてみせよう。


 エルミアは数秒間沈黙し、俯いた後。意を決したかのように俺の顔を見る。


「いい……だろう! ただし条件がある! 私を今ここで打ち負かしてみせろ! 模擬戦でだ!!」


「ただでは俺の言うことを聞かないというか。いいだろう相手になってやる」


 俺は箱にされていた模擬戦用の木剣を取る。それを見たエルミアもまた、別の箱から同じものを手に取った。


「オマケしてやる。勝敗の条件はお前が決めろ」


「では、十秒間木剣が私たちの手から離れた時、もしくは負けだと感じた時。これでいいか?」


「問題ない。では始めよう」


 掛け声はなく、互いの息があった瞬間に戦いは静かに幕を開ける。


 エルミアはフッと息を吐いた瞬間、一瞬で五メートルはあっただろう俺たちの距離を詰めてきた。あまりの速さに驚くが……。


【見えている】


 ラインハルトの本能が俺の身体を動かし、エルミアの初撃を完全に防ぐ。それにエルミアは驚いたような表情を見せた。


「な……!? 魔法を使わず初見で私の速度に……!?」


「驚いている暇があるのか? 今度はこちらの番だ!」


 せめぎ合う木剣を持つ手に力と魔力を込めて、エルミアを押し返す。エルミアは自分が押し返されると悟って、木剣を弾きながら後ろへ跳び退いた。


 間合いをとってきたエルミアは迂闊に距離を詰めてこようとはしない。先程の攻防。俺がエルミアの速度に反応できたことに警戒を抱いているのだろう。


「足が止まってるぞ。【魔弾】」


 木剣を持っていない手で、魔法を発動。


 魔弾。小さな魔力の弾丸を高速で飛ばす魔法だ。簡単な魔法ゆえ、牽制などにもってこいの魔法。


「ふん! こんな程度の魔法など……!」


 エルミアは木剣に魔力を纏わせてそれを弾く。それくらいはできるだろうと踏んでいた。しかし、一瞬魔弾に意識が向く、その時間が欲しかった。


「【影纏い】」


 俺は次なる魔法を使う。影纏い、自身の影を肉体に被せる魔法だ。


 その後、俺は呼吸を潜めて、姿勢を低くしつつ、地面を蹴る。影に溶け込むように静かな動作で、エルミアへと肉薄する!


「……なっ!? いつの間に!」


「鈍いぞ。反応も、何もかもな」


 エルミアは慌てながらも俺の剣をなんとかギリギリで防ぐ。俺にもう少し剣技があればこれで勝負が決まったのだが……仕方ない畳みかける。


「見えない……!? なんだお前の、剣、技は!? 魔法なのか!?」


 エルミアは困惑しながらも戦闘経験と反射でなんとかギリギリ俺の剣を防ぐ。


 影纏いのせいでエルミアには俺が極端に見え辛くなっている。影纏いは影を纏うことで、俺自身を暗闇にする魔法だ。


 俺が持っている木剣にもその効果がかかっていて、よほど近くにならないと木剣を視認できない。そのよほど近くは攻撃が当たる一歩手前くらい。エルミアはそこからギリギリで反応している。


「【避雷】!!」


 エルミアは木剣を遠くに投げながら魔法を発動する。瞬間、魔法の効果でエルミアは木剣の元にワープし、俺との距離を取る。


「私が剣技だけだと思うな! 【雷鳴】!!」


 エルミアは二本の指から雷を放出する。


「【影人形】」


 影纏いで纏っていた影が分離して、自立を始める。俺の姿形、手に持っていた木剣までコピーした真っ黒な人形。


 それはエルミアの攻撃を弾くと、エルミアに向けて走り出す。手に持った剣でエルミアへ攻撃を仕掛ける。


「ぐっ! 二対一とは卑怯な魔法を!!」


「この程度の魔法ならありふれたものだろう!?」


 エルミアを挟撃するように俺も白兵戦に参加する。


 エルミアは雷と天候の神の加護を持つ。故に雷属性の魔法に優れており、肉体を雷属性の魔力で強化し、通常では考えられないスピードを得ている。


 しかし、二対一でも致命傷を避けて迎撃できているのはそれと、守護騎士として長年培った経験値があるから。


「ぐ……ぅ! 【放電】!!」


 エルミアは苦し紛れに魔法を発動する。自分の身体に溜め込んだ魔力を一気に放出する魔法、放電。自分を起点にして全方位かつ高威力の雷を放つが、その代わり発動後の隙も大きい。


 俺は自分が受けるダメージを全て影人形に押し付ける。影人形は存在している間、俺が受けるダメージを肩代わりできるのだ。


 放電が終わったエルミアの木剣を弾き、彼女を押し倒し、木剣を顔の横に突き立てる。


 エルミアの木剣は何度か回転して宙を待った後、遠くに突き刺さった。


「どうする? 続けるか?」


「……私の負けだ。それとこの状況は……」


 エルミアは負けを認めると同時、何か言いづらそうにもじもじとし始めた。


 ……一体なんなんだ?


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悪役貴族に転生したので理想の悪役を目指した結果〜ヒロイン達が次々と闇堕ちして俺を崇拝してくるのだが!?〜 路紬 @bakazuma

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