第20話 守護騎士との交渉
「「ちょっと待て……!!」」
俺とエルミアはレイラの発言に対して同じタイミングでそう口にした。余りにも綺麗なハモリ具合に、教室内でクスクスと小さな笑い声が起こる。
「レイラ様! 私は反対です! 誰かと組んで戦うとはコミュニケーションや互いへの理解が問われるものです! 他人の気持ちをわかろうとしない男と組むような愚策……私は認められません!」
「……ラインハルト君もそう思いますか?」
エルミアの早口かつ捲し立てるような言葉を聞いて、レイラはいつも通りの様子で俺にそう聞いてくる。
「概ね同意見だ。だがまあ、君の意見次第では考える余地はあると思う」
「私は絶対に反対です! この男と組むつもりなんてありません!」
「ふむ……ではレイラ・ミネルヴァ。お前がブラッディギアスとトラロックを組むべきと思った理由を言ってみろ」
教師がレイラへそう話を促す。レイラはこくりと頷いた後、理由を話し始める。
「まず、私はラインハルト君に対して、これからも学園の案内や行事について説明する機会はあると思っています。ならばこそ必然的に私とラインハルト君の間にコミュニケーションが生じます。
同時にエルミアは私の守護騎士。私と共にいるのが役割である以上、エルミアとラインハルト君の友好関係は必要と感じました」
まあここまでは納得できる。エルミアに邪険にされているが、エルミアの一方的な態度が改まらないと、俺とエルミアの間に立つレイラは苦労するだろう。
俺とエルミアの関係が少しでもいい方向に転がれば、間に立つレイラもそこまで苦労しない。エルミアの発言をなだめたり、叱ったりする必要がないわけだしな。
「戦いは双方のコミュニケーションと理解が必要。それは理解しています。だからこれを機に二人には交流戦で勝つべく、コミュニケーションと理解を深めてもらいたいと思い、推薦しました」
「なるほど。理解した。……とのことだが二人は反論あるか?」
レイラにはこういったしたたかな一面もある。レイラは交流戦で勝つという名目で、エルミアを推薦した。
それは俺やエルミアのプライドを刺激するやり方だ。こういうのを意図的にやるのは心理戦に長けたクラウディアの特権かと思っていたが、中々どうして彼女もやり手。
そこまで言われてしまったら、理想の悪役を目指す以上引き下がれない。これは俺とラインハルトのプライドの問題だ。
「いいだろう。俺は問題ない。そこまで言われて引き下がる理由はないしな」
「エルミアはどうですか?」
クラスの視線がエルミアへと向く。エルミアは何か言いづらそうに奥歯を食いしばる。ここで引き下がれば守護騎士としてのプライドが傷つく。
かといって、俺と組むのは嫌という二つの気持ちがせめぎ合っているところか。
「断ってもいいんだぞエルミア・トラロック。お前に守護騎士としての誇りと矜持がなければ……な」
「ぐぅ……! わ、わかった……。私がラインハルト・ブラッディギアスと組もう」
「まあ!! ありがとうございます! エルミア!」
こうしてエルミアと俺は交流戦で共に戦うこととなる。さて……これは一波乱も二波乱もあるかもしれない。
***
授業が終わり、放課後。俺たちは魔法学園が誇る屋外訓練場にきていた。魔法や武器の訓練をするために様々な道具が揃っている。
「私からお前へいうことは二つだけ。
私の前に立つな、私の邪魔をするなだ」
「随分と邪険にするじゃないか。主人の言いつけも守れないのか?」
エルミアはキッと俺を睨みつけてそう口にした。余りの物言いに一瞬青筋がぴくりと動いたくらいだ。まだこんな程度では怒らないが……。
「レイラ様が押し切ったことだ。それに交流戦など私一人で事足りる。わざわざお前の手を借りるつもりなど……」
「そうとも思わんがな。お前は戦う相手のことを知らなければ、自分のことを知らなさすぎる。随分と視野狭窄だな」
「……なに?」
エルミアが強い言葉を使うのは、守護騎士としての絶対の自信と誇りがあるからだ。
しかしエルミアの実力はギリギリ上位層に入れる程度。原作をやり込んだ俺は知っている。俺たちと同じ学年にまだまだ化け物が眠っていることを。
「俺とてなんの下調べもなく入学したわけではない。例えばクラウディア・ミア・アイテール。彼女は身体的なハンデこそあるが、それ以上の魔法能力を備えている。
Aクラスが常に成績トップなのはそんな彼女が率いているから。お前も何度か負けているのだろう?」
魔法至上主義を掲げる魔法学園。この学園は教育方針として生徒たちを競わせることに重きを置いている。
生徒間の勢力図や、クラス分けなどはその教育方針によるものだ。
そんな毎日切磋琢磨している生徒たちの中でレベルが低いとサボり、成績トップに君臨し続けるクラウディアは別格。エルミアもそれは理解しているのだろう。拳を握りしめる。
「つ……次こそは負けない! 私はレイラ様の守護騎士としての誇りがある! あんな女に負けて……」
「いいや。お前ではクラウディアにすら届かない。フェリクス・ヴァルカン。炎神の加護を持つ男に、お前一度も勝てた試しがないだろう?」
「……っ!? 何故、それを!!」
エルミアの言葉に俺は肩をすくめる。
フェリクス・ヴァルカン。原作では主人公のかませになる生徒だがその実力は意外にも高い。
炎神の加護を持つだけあって、火属性の魔法に長け、攻撃と防御のバランスも取れている。さらに持久戦も行けて、粘り強く戦う
対してエルミアは高火力であるが、防御性能は高いといえず、総じて短期決戦向きの性能。フェリクスとは相性が悪く、原作では一度も勝てたことがない。
「守るべき誇りと、自分のエゴを履き違えるな。お前は聖女の守護騎士。もし、守護騎士としての誇りがあるなら俺と組め。俺が勝たせてやる」
エルミアは迷いを孕んだ目で一歩、後ろに退く。
さて、ここからは俺の得意な交渉の時間だ。
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