第四十九話 城へ
「おっ! とっ! 痛たたたたた……畜生め!」
猛スピードで駆ける
「ちっとばかりお優しくできねえのか、『
「なにぶん
ふたりのいささか品のない会話に、竜車の中で顔を
一方のシオンは上機嫌だった。
「す、凄いね! 凄いね、おねえちゃん!! こんな速い乗り物、この世にあるんだねえ!!」
「速さなら、もっと他にもたくさんあるじゃない。……って、シオンは見たことないんだっけ」
「えぇええええ!! ズルい! ズルいよう! 銀じいとおねえちゃんは知ってるってこと?」
しまった――と思ったがもう遅い。
興奮と嫉妬がないまぜになったシオンは、香織子の肩を掴みぐらぐら揺らして駄々をこねる。
――これ、乗り物酔いするんじゃないかしら。
と、すべてを諦めた香織子がジト目で正面を見つめている頃である。
「ったく……! 見ちゃいらんねえなぁ! おい、王様、ちょいとその
そう聴こえたかと思うと、走る竜車のドアを開け、ひょい、ひょいっと、銀次郎が御者台までよじ登ってきたではないか。これにはさすがの豪胆なグレイフォーク一世も目を
「お、おい! 馬鹿、よせ! ……ううむ、人の言うことを聞かぬ
「んなもんあるわきゃあねえ。ま、そこでひとつ船でも
「おいおいおい……おいおいおいおいぃいいいいいっ!!」
ざ、ざざ、と頭のすぐ上を樫の丈夫そうな太い枝が通り過ぎ、王は精一杯身を
『千両万両 積んだとて
受けたなさけの 数々に
上州子鴉 泣いて
しまった――と思ったがもう遅い。
自分の目指す城の位置すらろくすっぽ知らない年老いた御者にその身を任せることになったグレイルフォーク一世は、今まで乗り越えてきたどんな困難よりも命の危機を感じていた。
――ううむ、これで死ぬのはごめんだなぁ。
しかし、すべてを
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「「ふう……助かった(な)(わ)」」
グレイルフォーク一世と香織子――期せずしてふたりのか細い
「さあ、ここが俺の城だ」
店を出たところからはるか遠くに見えていた風景が目の前に
感心しきりの銀次郎たちに今一度誇らしげに胸を張ってみせてから、王はこう付け加えた、
「……と、偉そうに言ったが、この城は国の皆の物でもある。さあ、遠慮せずに入ってくれ」
「お戻りですか、我が王!」
「なんだ、ハーランドか。出迎えなんぞ必要ないと言ってるだろう?」
「いえ。大層騒々しい騒ぎで、一体何事かと――」
やけに見慣れた姿が息を切らせて駆けてきた時から嫌な予感がしていた香織子を
「おや? いつぞやは失礼しました、ご令嬢……お、お元気でしたか?」
「あ、あの……はぁ。まあ、それなりに……」
「ほう! やっぱりそうか!」
どうこたえれば良いのか見当もつかず、
「ハーランドはな? 先日店を訪ねてからというもの、そちらのお嬢様の話ばかりするのだ!」
「ちょ――!」
さすがにそれは
「や、やめて下さい、我が王! 決してそういう
「そういう類じゃなけりゃなんだってんだ? おう、てめえさんがおっ返された団長殿かい」
ぎろり、という視線にも物おじせず、ハーランドは
「――!? ようやくお会いできましたね、マスター」
「おうよ。てめえさんとこの王様に連れられて来たぜ」
それはさておき、と言わんばかりに頭ふたつ分は優に
「……で? なんだか聞き捨てならねえ話してやがっただろ、おい? ウチの孫娘に――!」
「も、もう! なんでもないってば、銀じい! わざわざ掘り返さないでよ!」
「わ――分かった分かった! こっちゃあ生い先短ぇ年寄りなんだ!
最後に振り返り、噛みつかんばかりの怖い顔を
先頭に立つ王が言う。
「ちょうど例の『魔性の者たち』との次の会合に向けて、この国の主だった者を集めて話し合っているところなのだ。済まないが、そこに爺、あんたにも加わって欲しい。知恵を借りたい」
「なら――香織子、シオン、おめえたちもついて来い」
どうしよう、と顔を見合わせていた時だった。
銀次郎は、さも当然と言いたげに、ふたりを見て
「おめえらにだって、言いてぇことがあるだろうしな。だろ? 構わねえ、存分に言ってやれ」
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