第5話 後日談

 聖検省。


 ウラリヌスはリューネの報告書を読んでいた。

「何事にも代償が必要かぁ…」

 独り言を言った後。顔を上に上げる。


 神の心理は偉大なり、主の言葉は尊大なり。


 ウラリヌスは決済印を押した。これで聖女ルミアの異端審問事件は解決した。手続きとして報告書は枢機卿会事務局に提出されるが、ここでも事務掛が事務的に決済印を押印して書庫行きになり、書庫で保管されてオシマイとなるのだった。後はモノ好きが見るだけの存在となる。


 アンラッキー7とは何だったのか?


 自分の不幸は他人の幸福。他人の不幸は自分の幸福。


 ルミアが言うには、それが神から授かった聖女の力の一つなんだそうだ。早い話不幸を幸福に変える力なのだが、自分の幸福を他人に分けるという形で「救済」を行っていたのだった。

 今回の黒魔術騒動は、死者の蘇りを依頼されたものが、これを断った腹いせだった事が複数の証言と賄賂の存在で証明されていた。死者の蘇りは、神の意志ではない事から黒魔術として禁忌であった。(但し転生輪廻は死者の蘇りではないとされているので異端とは見做されないが、魂が他人の肉体に侵入する憑依。所謂、憑りつきは黒魔術とされ異端である)

 そして、「救済」の発動条件は対象者が死んでいない事が条件だったが、アンラッキー7を発動するには特殊な条件が必要だった。


 それは、純潔を失う事。即ち「破瓜」だった。聖女として処女を失う事は、悪魔と契約したと見做されて密告される身の危険が伴う事であった。処女信仰が当然の事であり、聖女の力も処女である事が前提であるなど、処女はこの世界に於いては最も重要なステータスなのだ。

 故に、基本的に聖女ともなかろうとも処女を失う「破瓜」が許されるのは「初夜」に限られていた。「初夜」は神の祝福を受ける儀式である婚姻を経なければならなかった。性交渉は生殖行為であり子をなす事が神聖なる目的であって、快楽などという自堕落な目的は厳に慎むべき行為なのだ。それ故に婚前交渉や避妊、中絶などはタブーなのである。


 基本があるなら応用もあるし原則があるなら例外もある。


 聖女が処女を失う例外として認められるのは婚姻以外に性行為以外で破瓜を強いられる事。つまり拷問だった。この拷問がアンラッキー7というスキルが自動発動したのだ。詰る所、処女膜である。しかし、特殊な媚薬を盛られ異端審問でもほぼ拷問と同じ責めを施されながらの審問だったのと、監視の目に触れていた事もあって今回はあまり意味を成さなかったが。


 関係者の処罰と処置が終了したが、聖女ルミアの処遇問題が残された。聖天使リューネからの報告書にはこう記されていた。


 大妖精エルスの治療とスキル「アンラッキー7」のおかげで聖女の力自体は回復維持する事ができたものの、世間的に聖女ルミアの身体と評判はすっかり傷物になってしまった。これではルミアの人生や生活に支障をきたす為、婚姻するか、修道女になるかの選択肢が聖天使リューネから与えられた。


 リューネは、結論に時間をかけて良いと伝えたが、ルミアはその場で婚姻を選択した。


 元来奔放的な性格であるルミアは故郷で、ある男性に好意を持っていたが、既に聖女に任命されていたので諦めていた。しかし、今回の一件で、その男性がわざわざ遠方の故郷から訪ねて来たのだという。そして彼から婚約指輪を渡されて求婚されたのだという。その話をルミアから聞かされたリューネは、急な展開に暫し困惑したが、聖女の婚姻は事前に全能神マルス様の許しを得る必要がある為、神界に赴いて婚姻を司る大聖天使エイロに相談した。

 エイロはナルシストで独特の雰囲気を持つなど扱いに困る天使の1人だったが、リューネの相談には快く応じてくれたので話はスムーズに進み、首尾よくマルス様の許しを得られたのだった。


 オルゴニアでの任務とルミアの治療が終了した事でルミアの故郷であるカルディアに4人で向かった。(面倒なので、天使の力で空を飛んで移動した)

 ルミアは、無事、男性と婚姻を成し遂げたのだった。



「ふう」

 これだけでお腹いっぱいになりそうだ。ウラリヌスは少し余韻に浸った。


 リューネとエルスは今日も大陸を飛び回っていた。


                              おわり

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ブロンズのリューネ アンラッキー7 TAKE2 土田一八 @FR35

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