第4話 聖女ルミアの場合 ~異端審問~
そして、異端審問が始まった。
聖女ルミアは異端審問所である教会に引き出されていた。さすがに全裸ではなく黒っぽいワンピースを着させられていた。晒し台に繋がれ、陰裂や肛門に異物をぶち込まれただけでなく媚薬も塗られたが、拷問の時と違って何だか妙に身体が熱い。
「では、これより聖女を騙るルミアの異端審問を始める」
異端審問官でもある司教が高らかに宣言すると聴衆から罵声がルミアに浴びせられる。結局の所、ルミアは自白しなかった。拷問官は散々ルミアの身体を凌辱したのだが
自白に導く事は出来なかった。その為、状況証拠を以てルミアが魔女であり、異端であるという事を証明する事になったのだった。
「皆の者、静粛に」
司教が木槌を叩いて聴衆を静かにさせる。落ち着いた所で審問が始まった。
「ルミア。お前は聖女なのか?」
「はい。そうです」
「ウソだっ‼」
聴衆が騒ぎ立てる。
「静粛に‼」
司教は木槌をバンバン叩く。異端審問ではよくある光景で、異端審問官である司教と聴衆はグルであり、聴衆の騒ぎは一種の演出装置なのだ。
「ルミア。お前は病人の少年に救済をしたのは事実か?」
「はい。そうです」
「では、何故、救済が成功せず、少年は死んでしまったのか?」
「私が連れて来られた時、既に彼は息絶えていました」
「ウソをつけ‼」
「何と!もう死んでいたのに救済を施したと言うのか?」
「いいえ。私は、息が絶えていた、と言いましたが、死んだ、とは言っておりません」
聴衆がぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる。司教は木槌をバンバン叩いて静かにさせる。
「では聞こう。息絶えたと死んだの違いは何か?」
「息絶えたは呼吸及び心臓の動きがが止まっただけであり、蘇生術をかけ、それでも心臓が動かず、呼吸を再開しなければ、その時点で死んだ、という事になります」
「では何故、救済を少年に施したのか?」
「私は彼が、息絶えた所を直接見ておりません」
「お前が殺したんだろう!」
「そうだそうだ‼」
再び聴衆が騒ぎ出す。
「静粛に‼」
司教は木槌をバンバン叩いて聴衆を静かにさせる。
「救済が成功しなかったのは、黒魔術だからじゃないのか⁉」
司教は声を荒上げる。
「くっ。いいえ。違います」
「黒魔術のせいだ‼」
聴衆は騒ぐ。
「いいや、違わない。ルミア。お前は魔女なんだろう⁉」
「いいえ。違います…」
ルミアは身体をもぞもぞ動かす。さっきから胸の先端や秘部が妙に疼く。その動きを司教は見逃さない。
「では、なんだこれは⁉」
司教はルミアに着せたワンピースを力ずくで剥ぎ取る。ルミアの艶めかしい肉体が大衆の目前に晒された。
「うくく」
そして太ももには陰裂からいやらしい体液が流れ伝わっている。そしてメスの匂いが鼻につく。
「なんだこれは⁉」
「私じゃない!」
「何を言っている!お前の身体から出ているんだぞ!」
司教は陰裂に刺さっている異物を弄り回す。すると、ビクビク身体が反応していやらしい体液を吹き出す。ルミアは堪らず悲鳴を上げる。
「いやぁ!弄らないで!」
ルミアは拷問という調教を施されていて、最後は今までとは種類が異なる媚薬で仕上げられていた。異端審問に日程に合わせて絶妙のタイミングで感度抜群の状態になっていた。そして、衆目を前にして絶頂しイキ果てる。それが何度も連続する。あまりにも耳障りなのでルミアの口に口枷が装着された。
「フン。こんな醜態を見せつけておいて何が聖女だ!貴様は悪魔と契約した魔女だ!」
魔女!魔女!魔女!
聴衆は薄ら笑いを浮かべつつリズミカルに騒ぎ立てる。
「今ここにルミアの正体が判明した!悪魔だと!神聖なる異端審問所はルミアに判決を言い渡す!」
司教は呼吸を整えて高らかに宣言する。
「ルミアを悪魔と認め、異端の罪により神の名に於いて火あぶりの刑に処す!」
その時、ピカッと光が唐突に光る。閃光が教会内を包み込む。全員が動きを封じられ、黙らされる。
「汝。神の名を言え」
若い女の声がした。
「だ、誰だ⁉」
司教は狼狽しながら誰何する。すると、まもなく光は消えて宙に浮く白いワンピース姿の乙女の姿があった。乙女は司教をじっと見下ろす。全員、宙に浮く乙女に注目する。
「我が名は聖天使リューネ。さあ、汝、神の名を言え」
「て、天使だと?翼も輪も無いではないか!」
司教は反撃する。その不遜な態度にリューネは残念そうにはぁと深い溜息を漏らす。天使全員が翼や輪を持っている訳ではない。何故なら、天使の能力に影響しないばかりか、神の言葉を人間に伝達する一部の天使がイメージアップの為に始めた単なるプロバガンダに過ぎなかった。
「汝。その程度で我を言い負かしたつもりなのか?」
「何だと⁉」
「地上にて神に仕える身でありながら、神の使いである天使の姿も存ぜぬとは如何なものかのう…」
リューネは司教をおちょくる。
「何だと⁉」
「フン。翼や輪を持つのが天使だと?笑わせるな。あれは、単なるイメージアップキャンペーンだ。神の使いである天使が神より目立ってどうする?基本的に翼と輪の両方を持つ天使は、死者の魂を冥界に導く冥天使であって、神界の天使の翼と輪は、基本的には飾りである。一部例外もいるにはいるがな」
リューネはドヤ顔で簡単解説をしてやる。
「黙れ‼神を愚弄しおって!天使を名乗る貴様こそが真の悪魔であろう⁉」
司教の詭弁を聞いてリューネはまた深い溜息を漏らす。
「汝。何をそんなに恐れている?」
リューネは司教を尋問する。
「うるさい!神の御前であるぞ‼神聖なる異端審問を邪魔する者は容赦せん‼」
「何が神聖だ。汝、汚らわしいぞ」
「何だとぉ‼」
「第一、誰の許しを以てこの異端審問を開いておるのか?」
リューネは司教を尋問する。
「…マーロ教主に決まっておろう」
「フハハハ。笑わすな。あんな俗物にそんな大それた権限があると言うのか?神を愚弄するな」
当時のマーロ教主や人間主体である教理庁は縁故主義や権威主義、拝金主義などから脱却できず俗物化していた。故に全能神マルス様の頭痛の種になっており、上位天使ウラリヌス ド レ ヴァレンヌ様を人界に送り込んで聖検省を作って教会の取締りをしていたのだ。異端審問は聖検省総裁であるウラリヌスの裁可がなければ実施できない旨の回勅がマーロ教主名で出されている。今回の異端審問はそれに反している為に私が取締役として派遣されたのだ。
「黙れ!偽天使!私は恐れ多くも、マーロ教主によって任命された司教であるぞっ‼その私や教主を愚弄する事は神を愚弄するのと同じ!貴様を悪魔として成敗する‼」
「衛兵集合!」
警備を担当する領主が衛兵を集める。
「衛兵整列!」
マスケットを持った衛兵が横隊を組む。
「弾込め!」
「火蓋を開け!」
「火蓋を閉めろ!」
「火縄を付けろ!」
「火蓋を開け!」
「構え!」
「放て!」
マスケットの銃声が教会内に轟き多数の鉛弾がリューネに向かって放たれる。が、鉛弾はリューネの身体を透き通って反対側の壁に命中する。聴衆から悲鳴が上がる。
「バカ者!何をしておる⁉」
「弾が透き通ってしまいました」
「聴衆を避難させろ!」
「ならぬ」
リューネはパチンと指を鳴らすと教会内の全ての分厚い大きな扉がばたんと閉まり、ビクともしない。聴衆達はパニックに陥る。
「フン。どうした?貴様らが放った鉛弾は壁に当たったようだな?」
「この悪魔め」
「今度は我の番だな」
リューネはそう言うと火縄銃を現す。
「
「弓矢ではないのか?」
司教と領主はイメージと異なる武器を取り出したリューネを見て勝手な事を言う。弾込めと火縄の装着及び着火は済んでいるのでリューネはマスケットを構えて照準を横隊の衛兵達に定める。
「火蓋を開け」
火蓋が開くと早合に仕組まれてある口薬が火門から火皿にこぼれる。リューネは引き金を引き、火縄を挟んだ火挟ががたんと火皿に落ちて火縄の火が口薬に着火し火門を通って上薬に火が素早く回って弾がズドンと瞬間的に発射される。
「爆ぜよ」
リューネが命令すると弾は爆発する。
ボン‼
「うわぁ⁉」
爆発の火と風は横隊を組んでいる衛兵達に襲いかかり、その殆どを薙ぎ払ってしまう。僅かに残った者も凄惨な光景を見て戦意を喪失してしまった。
「そ、そんなぁ…」
司教と領主は絶句する。
「フン。口ほどにもない」
リューネはそう言いながらマスケットに次弾の早合を装填して銃口を拳で軽く叩く。
「もう、現れても良いぞ」
リューネがそう言うと戦列天使が十数人姿を現す。
「衛兵の武器を回収し、司教と領主を逮捕せよ」
「はっ」
戦列天使達はリューネの指示通りにテキパキと動き、司教と領主は縄をかけられ、衛兵ほ一か所に集められて武器もすべて回収する。
「聴衆は全員席に戻るように。命令に従わない者は罰を与える」
リューネがそう言うと戦列天使が見守る中、聴衆達は一斉にそれぞれの席に静かに戻る。
「エルス。ルミアを晒し台から解放し、別室にて治療せよ。戦列天使2名はその護衛と警備をせよ」
「はっ。只今」
エルスは冴えない寺男風情から元の可憐な金髪碧眼美少女の姿に戻ると、ルミアの陰部から異物を引き抜き、晒し台のカギと枷を外し、毛布でルミアの身体を覆って聖堂の奥に行く。戦列天使2名が付き添う。
それを見届けたリューネはステンドグラスから光が当たる聖壇の上に立つ。ブロンズの髪がキラキラと光る。
「では、戦列天使は手筈の通りに配置に付け。連行されて来る犯罪人が到着次第、聖検省総裁ウラリヌス ド レ ヴァレンヌ様の命により、私、聖天使リューネが異端告発の上で異端審問を行う」
リューネは高らかに宣言する。戦列天使達がそれぞれの配置に就く。聴衆達は固唾を飲み込んでその時を待つ。やがて聖堂の重圧な扉が開き、戦列天使達によってパンドーレ夫人、拷問官と4人の獄吏を連行して来た。彼等は司教、領主とパンドーレ夫人を被告席の前列に拷問官と獄吏を後列に座らせた。
リューネは告発状を取り出して朗読する。
「全能神マルス様が御認めになられた聖女ルミアを怨恨により悪魔に仕立て上げたる此度の一件、非常に腹立しい。ブヨン教区を担当せしめるニヌス司教並びに領主であるリアン4世の腐敗ぶりに失望した。クレメンの回勅を無視し聖検省総裁の裁可なしに異端審問を実施するは、全能神マルス様の神意に反するもの也。よって、聖検省総裁ウラリヌス ド レ ヴァレンヌは、聖女ルミアを悪魔として偽って告発した上、賄賂を贈与した罪によりパンドーレ夫人を異端者として告発する。
次に…パンドーレ夫人の告発を賄賂によって受理した上、無許可異端審問を開催した罪、安易に有罪判決を下し職権乱用をした罪によりニヌス司教を異端者として告発する。
次に司教を経由した賄賂を受領して聖女ルミアを逮捕し拷問に処したリアン4世、その部下である拷問官クラプトン、獄吏スゾナ、リックス、ゴリオーネ、シースを、聖女を拷問、強姦、侮辱した罪により異端者として告発する。以上」
リューネは異端審問に移行する。
「よろしい。それでは聖検省総裁ウラリヌス ド レ ヴァレンヌの命により、異端審問を始める。では、罪状認否であるが、各々の自由であるので、有罪無罪、有罪の場合における量刑に関係しない。有罪無罪の判定は、証拠と証人の裏付けによって行われる」
パンドーレ夫人は聖女を悪魔と偽って告発した罪、賄賂を贈った罪に問われた。
「汝は以上の罪を認めるか?」
「はい」
パンドーレ夫人はしおらしく答えた。続いて証人尋問が行われ、証人に口汚く罵られた。
次に司教の番となった。司教は罪を認めなかった。しかし、証拠と、エルス、パンドーレ夫人、領主の証言で追い詰められた。結局、罪を認めた。
領主は罪を認め、拷問官、獄吏も女性を除いて罪を認めた。
いよいよ判決を言い渡す時が来た。
「パンドーレ夫人。聖女を偽りの告発をした罪、司教と領主に賄賂を贈った罪、いずれも有罪とし異端者として火刑に処し、財産の内商店経営に関するものは任せている従業員に譲渡する他は没収とする。ニヌス司教。司教という重責を担う立場にありながら、賄賂によって偽りの告発を受理しクレメンの回勅を無視し、聖検省総裁の許可を受ける事無く異端審問を開催し、安易に有罪判決を下した職権乱用の罪、いずれも有罪とし異端者として火刑に処す。リアン4世。賄賂を受け取った罪、偽犯罪で聖女を逮捕した罪、聖女を拷問した罪、いずれも有罪とし絞首刑に処す。領地、財産は全て没収とする。私兵、使用人は解雇される。家族について所有敷地からの追放にとどめる。拷問官クラプトン。聖女を拷問した罪、強姦の罪、聖女侮辱の罪、いずれも有罪とし絞首刑に処す。獄吏スゾナ、リックス、ゴリオーネ、シース。スゾナ、ズンナはいずれの罪も無罪とする。リックスはいずれの罪を有罪とし、懲役10年の刑に処す。ゴリオーネは聖女侮辱の罪のみ有罪とし、全裸晒し6時間を合計10日間の刑とする。但し、刑の執行は昼間の雨天荒天以外の日とする。ただちに刑の執行に移行せよ。以上。引き立て!」
パンドーレ夫人、司教と領主、拷問官、ゴリオーネは連行されて行った。無罪の獄吏は聖堂から外に出された。
「さて、ロイエのオメダイを持つ者、教会裏にて待機せよ」
数十人の聴衆達は戦列天使のチエックを受けた上で聖堂から出される。
「カリスエのオメダイを持つ者、聖壇の前に集まれ」
これも数十人の聴衆が集められた。
「では、残りの聴衆、下の広間に集まれ」
数十人の聴衆が広間に集められた。
「汝らには、聖女に罵声を浴びせ、屈辱を与えた罪に有罪とする。罰金として領主から貰った銀貨2枚を没収する。戦列天使に寸分違わず差し出せ。命令に従わねば、異端審問に伏す」
領主によって動員されたサクラである事は見抜かれていた。彼等は言われた通りに銀貨2枚を戦列天使に差し出した。
「大変よろしい。帰宅してよいぞ」
彼等は逃げるようにして聖堂から立ち去って行った。
その後で、街の広場にて死刑執行が死刑執行人の手で執行された。
「はあ。忙しいわい」
その一方で晒しの刑も翌日から執行された。
リューネ達は聖検省に戻って報告書の作成に忙殺された。
つづく
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