第3話 聖女ルミアの場合 ~教理庁~

 時は少し巻き戻る。マーロ教理庁にある聖検省。

 教理取締を担当するウラリヌスはオルゴニアからの報告書を読み、指令書を書き上げていた。そして、リューネを呼んだ。

「お呼びですか?」

「今度はオルゴニアに行って貰いたい。詳しい事はこれに書いてある」

「はぁ。またですか?」

 何度も頻繫にオルゴニアに行っているリューネはうんざりした表情で指令書を受け取る。つい先日も行って来たばかりだ。

「すまないね。僕は中央ユーロリアへの対応で手一杯だし、動ける聖天使はリューネだけだから。頼むよ」

 ウラリヌスはキザっぽくウィンクする。

「はぁい…」

 リューネは仕方なく承諾した。


 リューネは空を飛んでオルゴニアに向かう。オルゴニアは別の聖天使の担当なのだが、ずっと戦争が続いていて常に人手不足の状態だった。リューネは北ユーロリアとナザロヴァ及びネルクスの担当である。これだけでも相当広い地域の管轄だった。北ユーロリアは小康状態を保ってはいるが、リューネの出身国であるズェーン王国の協力があっての事だった。

「さて、ここだけど…」

 夕方。オルゴニアのとある小田舎のはずれにある水車小屋で連絡員と落ち合う事になっていた。リューネは白いタペストリーの目印を見つけて地上に降り立つ。そして水車小屋に入る。

「お待ちしておりました天使様」

 中年の男性がリューネに声をかけた。

「あなたも大変ね」

「いえいえ。あちこち飛び回っている天使様に比べましたらお安い御用です」

 彼は妖精の母と人間の父との間に生まれた人間で妖精の力を持ち、姿を自在に変えられる技能を持つ最上級妖精であり、本来の姿は金髪碧眼の美少女でリューネより一つ下のネクロス人だった。今はリューネの部下であり、ウラリヌスの命令でオルゴニアに寺男に扮して教理庁極秘調査員として活動していた。

「天使様。まずは、腹ごしらえでも」

「ありがとう」

 寺男とリューネは食事しながら打ち合わせをした。

「今日、来週の半ばに異端審問が開催される事が決定しました」

「そう。まだ1週間あるわね」

「はい!その間、ずーっと、リューネ様とイチャイチャできますね♡」

 中年の寺男はいつの間にか可憐な金髪碧眼美少女の姿になっていた。

「まぁ」

 とは言ってみたものの、リューネとて、カワイイ部下のエルスと仲睦まじく過ごすのは満更でもなかった。


「エヘヘ♡」

 リューネとエルスは行水でお互いの身体や髪の毛を洗い、夜はベッドで癒し合う。エルスは多忙で中々会えないリューネにここぞとばかりに甘える。リューネもできる限り甘やかす。


 天使と妖精という上下の立場がある関係だけれども、リューネとエルスは仲がいい。裸の付き合いは大切だとヤシマ出身の母は言っていた。リューネはエルスの事が好きだし、エルスもリューネの事が好きである。だから、それでいいのだ。ただ、エルスからすれば、自分だけを見て欲しいのだが、それは出来ないとリューネから告げられてしまった。多数の部下を持つリューネの事を考えれば分かり切っているコトだった。リューネとエルスは2人っきりの時は、お互いに求められれば受け入れて甘々に接するのだ。そうして2人の心は癒されて満ち足りるのである。


 次の朝、エルスは中年の寺男の姿に戻って教会に行った。リューネは村娘に扮して街の様子を調べる事にした。エルスから報告や説明は受けていたが、見ると聞くでは大きな違いがあるからだった。やはり、こういうのは自分の目で確かめる必要があった。異端審問が開かれる教会にもミサに紛れ込んで下見をする。施設だけでなく関係する人物も人相や衣服、その人の雰囲気などもつぶさに観察する。異端審問は概して関係者が多いので一週間はあっという間に過ぎ去ってしまう。そしていよいよ、異端審問が開かれる日がやって来た。


                                  つづく

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