境界線
「先輩、ご自分で押さえて貰えますか?」
ひどく落ち着いた声が出た。カラカラと床を転がるボタンの音が聞こえるぐらいに静まり返った教室で。
「あ、あぁ」
素直に痴女先輩が従ってくれてるのを見て、痴女先輩が実際に布地を押さえたのを見届けてから僕は手を離した。
「危ないところでした」
本当に危なかった。と言うか、何でこんなに冷静でいられるのかがわからない。危ないところどころか多人数に決定的なところを見られてるのだ。
セーフかアウトか、その境界線をアウト方面に踏み越えている、だが。
『変に騒ぎになる前にこのまま押し通れ』
自分の中で誰かが助言する。確かにそうだ。変に我に返られて、僕が痴女先輩のおっぱいを触ったことに触れられたら拙い。
『触れたのは僕だけど』
自分の中で誰かが呟く。こう、なんかうまいこと言いました的な得意げな感情を添えて。
やかましいわと叫びたいがスルーする。
「先輩、部室に行けば裁縫道具があるんでしたよね? ひとまずそこへ、ボタンは僕が拾って持ってゆきますから」
「そ、そうか」
「はい」
ごく自然に教室を後にする理由を作って、周囲を見回し、落ちていたボタンを拾う。
ちらり教室の入り口の方を見れば、痴女先輩がそちらに向かっていて。
「そう言えば手が塞がってましたっけ」
痴女先輩を追いかけ、追い抜いて戸に手をかける。痴女先輩が入って来た時のまま半開きだった戸をもう少し開け。
「どうぞ」
「あ、あぁ。すまないな」
「いいえ」
軽く頭を振って、戸をくぐった痴女先輩に続いた。
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