ふたつにひとつ
「さてと」
HRの前にやってきて、一時間目と二時間目の間は僕が痴女先輩の教室に。二時間目と三時間目の間も同様で、三時間目と四時間目の間、つまり今僕は痴女先輩を自分の教室で待っていた。
痴女先輩とは学年が違うので件のファンクラブメンバーだという奴の方がこの教室に先にやってきそうではある。
「面倒なことにならないといいけど」
とは言わない。まず間違いなく無駄足を幾度か踏ませているのだから、先方が怒っていても驚きはないのだ。
「竹之内おっぱいぃぃぃ!」
だから、唐突に教室の戸が勢いよく開けられても、噂をすれば影か程度で動揺もなく、むしろ。
「誰がおっぱいだぁぁぁ!」
下の名前みたいに混ぜられることだけが許せなかった。こう、一歩間違ったら手が、拳が出てたと思う。
「竹之内君、やっぱり……」
「やっぱりって、何?! と言うか今『やっぱり』って言ったの誰だ?!」
叫んで振り向くもクラスメイトは一斉に顔を背けて。
「やぁ、竹」
「先輩?!」
件のファンクラブメンバーが入ってきたのと逆側の戸を開けて痴女先輩が顔を見せた時、被せる様に声を発せたのは我ながらファインプレーだと思う。
流石に人前で竹痴君とか呼び間違えはしないと思うが、それでも確信が持てる程自信はなかったのだ。
「「せっ、生徒会長?!」」
もっとも、僕以外にとっては突然の痴女先輩の来訪に驚いたクラスメイトたちはそれどころではなかったようだけれど。
「おっ、おま……生徒会長をっ」
ただ一人、痴女先輩のファンクラブの一員と言う別のクラスの一人だけが僕のしたことを見抜いたみたいだったけれど。
「そうか、キミが……話は聞いているよ」
「あっ、あ、あ……」
ちらり、視線は合わせず僕を一瞥した痴女先輩に見られれば言葉が出てこないようで。
この分なら何とかなる、そう思った矢先。プツ、と音がした。
「っ」
すぐさま動けたのは、きっとあの日、自分一人では痴女先輩を助けられなかったから。
考えるより先に身体が動いた。伸ばした両手は押さえ込むことで、崩壊を止める。同時に勢いよく押さえつけることになったから、痴女先輩の柔らかな双丘に指はむにゅっと沈み込む。
「あっ」
「あ……」
痴女先輩の漏らした声は、妙に艶っぽく。僕の漏らした声は、どこか自分のものでないようで。
叶うのはふたつにひとつ。
僕はポロリを防ぐ代償に、クラスメイト達の前で痴女先輩の胸を鷲掴みにしていた。
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