番外5・とある探索者の休日
「はぁ……」
ため息は薄暗い室内に響き渡る轟音と音楽、そして悲鳴にかき消された。
飛ぶように流れる景色、目まぐるしく様々なモノが通り過ぎてゆく中を一台の自動車が猛スピードで突き進んでゆく。
ただ、オレはその自動車に乗っているわけではない、オレはダンジョン街のショッピングモールにある映画館で今話題とされる映画を見ていたのだ。
「話題になるだけのことはあるんだがなぁ」
面白いか面白くないかで言えば、間違いなく面白い。だが、素直に面白さを感じられる状況にオレはなかった。映画のチケットは二枚、オレの隣は空席。
「はぁ」
オレはダンジョン探索者だ。実入りもそこそこいい方で、ついこの間まで恋人もいた。その恋人にオレはダンジョンで手に入れた珍しいアイテムをプレゼントしたんだ。
「豊胸の実」
食せば胸が大きくなる果実だ。珍しい猿の魔物が果実を落とした時は小躍りして喜んだものだ。身体能力を強化する果実ってことはオレも知っていたのだから。ただ、外観を見ただけでは効果がわからず、ツテと金を使って果実の鑑定を頼んで、ようやく効果を知ったオレは迷った。
「男の胸がデカくなってどうするよ?」
胸を大きくする実と判れば自分で使う選択肢は消えた。じゃあどうするのかって話になるが、果実系のアイテムは日持ちしない。売るなら傷む前に売らなければならなかったが、ふと思った。
「売らずにアイツにプレゼントしたらどうよ」
と。まぁ、その結果、オレは振られ。何もかも嫌になったオレはたまたま目についたリサイクルショップに元凶になった果実を売り払った。
「今思うとネットオークションにでも出すべきだったかもだが」
日持ちしない果実と言うのがネックになる。加えてこの果実のネットオークションでのやり取りは詐欺も多いのだ。
売主は果実が傷む前に売ってしまいたいと急いて購入希望者の選定や信頼確認が甘くなって果実を代金を払われずだまし取られたりするケースが。
買主は果実が日持ちしないことでオークション期間が短いことで落札後傷む前に送って貰わないとと急いで代金を振り込んで、商品がいっこうに送られて来ず、騙されたと知るケースがある。
いろんな意味であの果実をもうこれ以上持っていたくないオレにとってネットオークションは選べなかった。結果、衝動的にリサイクルショップで売った代金はそれほど高くない。
「リサイクルショップもピンキリだしな」
日持ちしない品と言うのもある。ひょっとしたら学生の小遣いで購入できる程度の値段で陳列されていても驚きはない。
「まぁ、オレにはもう関係ない話だ」
昼飯を食ったら、余ったチケットでもう一度映画を見る。それでこのことは吹っ切ると心に決めていた。
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と、果実を売り払ったのはそんな探索者さんでしたとさ。
尚、振られた理由は彼女さんが「あたしのおっぱいじゃ物足りないって言いたいわけ?」と受け取ったのが理由っぽいです。
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