そっちじゃない
前回までのあらすじ。唐突に聞き流せないを通り越して理解したくないことを言われて石になった。
比喩表現だが、石になれたらどれだけよかったか。
痴女先輩か、痴女先輩だろう、痴女先輩でございました。
こんな訳の分からない情報が広まる理由なんて他にありえない。
「いや、お前。あいつ男だろ? そもそもそれがどうしたってんだよ? 揉む気か? 揉ませてくれって頼む気なのか?」
「んな訳ないだろ、俺もそんな趣味ねーって」
ドン引きした片割れの声にもう一方が笑いつつ否定している。それもそうだ、むしろそんな趣味の奴が痴女先輩以外に居たら僕は転校を真剣に考える。
いや、もうこんな噂流れてる時点で転校すべきだろう。ここはどんな地獄だ。
「その前に痴女先輩は一発殴りに行こう」
声に出したわけではない。だが、相手が女性であれ僕にだって看過できないことはある。これは助走をつけて飛び蹴りしても許される案件だと思う。
「そもそも、何がどうしてそんなことになったんだよ?」
僕がそうして先輩への憤りを静かにあらぶらせていると、ドアの向こうで話は進んでいて。
「あー、当人が言ってたのを聞いたやつが居たらしいぜ? 『初恋だとか自分のおっぱいを揉んで我慢だとか色々あったからなぁ』だったか?」
「あ゛」
身に覚えのあり過ぎる内容を聞いて僕の意識は遠のきかけた。それ、僕の独り言だ。
「ん? 今何か聞こえたような」
「気のせいだろ」
思わず漏れてしまった声が外の二人の片方には聞こえたようだが、幸いにももう一方にさらりと流され。
「それよりさっさと終わらせて教室に戻るぞ。次の授業、小テストあったはずだからな」
「うわ、マジかよ? 俺なんも勉強してねぇってのに」
話題が僕から逸れてくれたこともトイレに長居する気がなさそうなのもよかったことではあるのだが。
「まさかあの独り言が聞かれてるとか」
などと声には出せない。だが、頭を抱えるくらいはいいだろう。
それは痴女先輩だと言えたらどれだけ良かったことか、だが。
「……っ」
独言が今の地獄を招いたところだ。この状況で独り言を漏らすほど迂闊な僕ではないが、さっきの話が痴女先輩の耳に届いたらどうなるかを考えたら、僕は自分の感情を抑え込むので精いっぱいだった。
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前々々話辺りの独り言を盗み聞きされて、初恋も自分のおっぱい揉んで我慢してるのも主人公だと誤解されたでござるの巻。
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