それはそう

「はぁ」


 僕の話を色々聞いて警察の男性は帰っていった。一応僕は怪我人ではあるし、体調を考慮して長時間の聞き取りはナシにしてくれたと考えるべきだろう。


「とはいうものの……」


 話はまた聞きに来るということらしいし、両腕が回復したとしても中学生なのに魔法が使えてしまった僕をこのままにしておくとも考えづらい。


「保護観察処分とかそんなかな」


 退院したら、また魔法を使うんじゃないかと最低でも監視はつくと思う。もっと悪ければ中学生で魔法が使えたことを解明するためにどこかの研究所に連れていかれて調べられるなんてこともありうるかもしれない。


「普通の学校生活とは当分お別れだなぁ」


 そもそもがもう暫くは入院生活だろうけれども。父なら痴女先輩に使ったモノよりグレードの低い回復アイテムを入手することも可能だろうが、怪我が治れば警察の人もこちらの体調を慮って聞き取りを短く切り上げると言ったことはしないだろうし、僕の方で今世の父に回復アイテムをねだるつもりはない。

 むしろ回復までに僕が魔法を使える理由について警察が納得しうるシナリオを用意しておかないといけない。あちらは犯罪者を取り調べる、嘘を見抜くプロフェッショナルだ。転生者で原作知識もちとは言え、一から十までみんなでっち上げの作り話などすぐに看破される。


「そう考えると」


 本当に原作知識があってよかったと思う。確か、原作で危険な魔法を教えられる探索科中退者は覚えが悪くて魔法の会得に一年近くかけていた。


「と言うことは」


 一年前からその計画は勧められていたということになるし、危険な魔法を組み立てたり習得する場所を用意するのも含めれば、数年がかりの計画でもおかしくなく、ダンジョンに関する知識や道具などの入手難度を考えると、準備を本国でしているとは考えづらい。高い確率でこの国に居るであろう工作員。今の僕では知識の出どころにするのにこれ以上の人物はいなかった。

 このタイミングで警察にマークされたことで動きづらくなって原作で起こる事件が起きなくなるバタフライエフェクトが起こる可能性もあるが、ぶっちゃけそこは割り切ろうと思う。


「ふぅ」


 精神的に疲れていたのだろう。警察の男性に席を外してくれと言われて痴女先輩は先に帰っていたので、聞き取りが終われば僕だけになった病室は静かで。ベッドに身体を預け目を閉じてしまえば、僕の意識は闇の中へと沈んでいった。


 

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