HATUKOI


「え、ええと……」


 調子が狂う。いつもの痴女先輩でない先輩にどう接しろと言うのだろうか。


「戸惑うのは、わかる。私もこういうのは初めてなんだ……正直持て余してると言っていい」


 相変わらず見たことのない態度の先輩は落ち着かない様子で。


「そんなことを言われましても……」


 こちらとしても、どうリアクションすればいいのか、困る。


「先輩」


 とだけ口にしても後が続かず。


「客観的に見て、これが『恋』というものなんだろう。流石にそれくらいは理解できる」

「っ」


 思わず痴女先輩の方を見てしまうが、ここまでの流れからそう驚きはしなかった。


「あの時のキミはなんとしてでも私を救おう、そうしようとし続けてくれたからな」

「あっ、そ、それはそうですけど……」


 真正面から言われると、居心地が悪い。その発言者は相変わらず真正面どころか一向にこちらを見てくれなかったけれども。


「そもそも責任を取ると言った私だ、相手がキミだったのだから問題ないと言えばそうとれもするかもしれないが……色々支障があることももう竹痴君なら察して貰えたと思う」

「あー、僕をまともに見れないとかですか?」


 確かにそれは問題かもしれない。痴女先輩と僕のことは先日の事故と入院とかまでを鑑みれば隠しおおせるとは思えない。


「その上で目に見えて先輩の様子が変わってれば、ですね」


 ぼくと先輩の様子は、何も知らない、あるいは中途半端に事情を知っている噂好きたちの良い遊び道具だろう。


「あることないこと吹聴されると面倒だってのはわかります」

「違う」

「え?」


 僕からすれば懸念の中でも大きいと思われたことはあっさり否定され。


「……んだ」

「先輩?」

「まともにキミを見られないこんな状態じゃ『おっぱいを揉ませてくれ、二の腕を――』とかとても頼みにくいんだ!」


 痴女先輩は変わってしまったようで、やっぱり痴女先輩だった。


「心の底からどうでもいいんですが、それ」

「っ、くぅ……竹痴くんは直揉みまで許してくれたのに、なんと不甲斐ない」

「話聞いてます? もしもーし」


 ダメかもしれない。この先輩、やっぱり手遅れだった。


「と言うか、ひょっとして今日のお見舞いの理由って……いえ、何でもないです」


 先輩の変態っぷりから、お見舞いにさえ良からぬ下心を邪推してしまった僕は言葉を途中で取り下げた。藪をつついて蛇を出すことはないのだ。


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 変態だろうと痴女だろうと恋は恋ですよね、うん。

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