これから
「先せんぱぁぁぁい! ……あ」
自分の絶叫で目が覚める。目が覚めたと認識できたのは、ぼやけつつも見える景色がさっきの病室そのままだからだ。汗をかいたのか握り込んだシーツの布地がじっとり湿っていて。
「ゆ……め? そっか……」
結局人を呼ぶことも出来ずまごついているうちにまた寝てしまったのだろう。よくよく考えれば先輩が元気に病室に入って来た時点でおかしいし。
「思いたくない」
あれが、虫の知らせとかそういったものだったなんて。
「……よし」
先輩のところへ、行こう。幸いにも足の方はなんの不調もない。
「怒られそうだし、見つかったら連れ戻されそうだけど」
あんな夢を見たことで踏み出すつもりになれたとしたら皮肉だろうか。最悪に近い不吉の滲む夢を見たから、確認したくなったのだ。
「あんなのはただの夢」
出鱈目だって。
「点滴てきなのはない……な。腕は両方ぐるぐる巻きだけど」
腕の痛みを鑑みればこの手当は順当なのだろう。幸いにも指は動かせるようなので病室の扉を開けられないということはなさそうだった。
「んっ」
「竹之内さん? 入りますよー」
意を決して身を起こし、ベッドから出ようとしたタイミング。病室の外から声はして。
「あっ」
僕は叫んで起きたことを思い出す。
「そりゃ、人も来るよな……はーい。どうぞ」
嘆息一つを挟んで病室の外からの声に応え、許可を出す。とりあえず病室をすぐに抜け出すことは出来なさそうで。
「やぁ、竹痴君」
「へ?」
看護師さんらしき人と一緒に入って来た先輩の姿に僕は固まった。
「無事でよかった」
そういうべきだろうに、僕の頭の中を埋め尽くしたのはナンデという三音だけ。
「あぁ、なんと言えばいいか。キミの御父上がつてを使って一番いい回復薬を手に入れてくれたんだ。そのおかげで、ね」
「あー」
言われれば瞬時に納得も出来た。強力な魔剣も用意できるコネのある今世の父だ。そして先輩は結婚を前提に僕とお付き合いしてることになっている人。
父からすれば義理の娘になる相手が僕を庇って大けがしたとなれば、全力を尽くしたって不思議はない。
「うん」
最上の結果だろう。だというのにここまでの葛藤とか焦燥とかは何だったんだと思う僕も居て。
「とりあえず、キミの方も意識が戻ったようで何よりだ。積もる話というか、色々話したいこともあるが、私も無理を言ってキミの病室に連れてきてもらった手前、これ以上看護師さんの手を煩わせる訳にもね」
「あぁ、まぁ、そういう事情なら、そうですよね」
話したいことは僕の方にもある。それに僕が意識を失った後のことはまだはっきりしてない訳だし。
「気になることはありますけどね」
それはきっとこれから、次の機会に話せばいいだけのことなのだ。
きっと、これから。
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という訳で、最終的には親の力で先輩が助かったという、ね?
さて、今章はこれでおしまいということで、いったんこのお話も完結としておきます。
続きの構想も文字に起こしてない記憶の空白部分の真相とかあるんですけどね、他にやんなきゃいけないこともありまして。
では、また竹痴君たちのお話をつづれるようになりましたら、このあとがきっぽいとこでお会いしましょう。
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