手の施しようもなく
「常識的に考えたら――」
仮定になるが、先輩を救えていたとして、先輩の容体が僕より軽いということはあり得るだろうか。
「ない、な」
だから助かっていたとしても集中治療室とか僕より重篤な患者の為の病室に担ぎ込まれているだろう。
「そして、一応僕も病院に担ぎ込まれこうして寝てるわけで」
患者の精神的負担になるような情報を聞いたところで看護師さんが教えてくれるとは思いづらい。
「なんて理論武装してみたけど」
結局のところ、行動に起こすのが怖いだけなのだ。
「仮に今、先輩が生死の境を彷徨っているというなら」
足が無事な僕は這ってでも先輩の元に行ってのどがかれるまで声をかけ続けるべきだろう。だが、それは先輩が助かるか危うい状態にあるという限定された状況下の話で。
「助かって絶対安静にしてなきゃいけないなら、ただの邪魔」
そして、考えたくないが、先輩が助かっていなくてそれを知らされたら、僕は立ち直れる気がしない。
「そもそも先輩がどこに居るかもわからなくて、今の両腕とか鑑みると看護師さんも聞いたところで教えてはくれない筈」
しなくていい言い訳を、できない理由を集めているのはわかっている。だが、ほぼ手詰まりなのも事実だ。
「こう、千代先輩と名を読んだら」
「竹痴くぅぅぅぅん!」
「おごっ」
唐突にドアを開けて入って来た先輩がタックルの勢いで突っ込んで来て、肩か頭かわからないものの強力な衝撃を受けた僕が息に詰まるとか、そんな都合のいい展開。
「直揉みしていいという話は覚、心配したぞ竹痴君!!」
「っく、欠片も信用できないんですが、その心配」
というか人の病室まで来て何を口走ってるんだというべきか、もう僕のパジャマのボタンに手をかけてることにツッコミを入れるべきだったか。
「なに? 『しんぱいよりおっぱい』だって?」
「言ってませんし、それは先輩でしょうに」
「はは、違いない。なので、ここは竹痴くんのおっぱいへ直に顔を埋めて深呼吸でも」
呆れたような僕の言を笑い飛ばしながら痴女先輩は世迷い事を口にして。
「すぅぅぅ、っはぁぁぁ」
本当に深呼吸を始めた変態な先輩に、これ別の意味で手の施しようがない奴ではなんてことを思ったりして。
「あ……れ?」
呆れていた筈なのに不意に視界が滲んで。
「竹痴君?」
「す、すいません……なんか」
意識したら、涙が止まらなくなる。それはきっと安堵からのものだろう。
「いや、いいんだ。キミはよくやってくれた。だから……」
先輩は言う。僕の胸に顔を埋めたままで。
「誰も、キミをせめはしないよ」
「先……輩?」
猛烈に嫌な予感がした。
「無論、私もだだからキミは……自分を許してやってくれ。私もそう長い間ではなかったが、キミのおかげで幸せだった」
理解が追い付かない。だというのに体中の血のけが引いていた。
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たぶん次話、最終話。(この章の的な意味での可能性あり)
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