指の間を零れ落ちるように
「あ……れ?」
視界がぼんやりして、思考も似たようなもの。けだるさと共に覚えた疑問は、自分が何をしてたんだっけと言うもの。
「そっか、寝ちゃってたのか」
起き明けの寝ぼけた状況が現状に重なって、ほっとした。それはそうだ、あんなことがあっていい訳がない。僕の腕の中で冷たくなってゆく先輩を救うことも出来ず、消耗しきって意識を失っただなんて。
「悪夢にしてもタチが悪いよ」
ロクでもない夢を見過ぎだろうとぼやいてこれからどうしようかとまだ半分くらいしか働かない思考で考えれば、気だるさが僕を気遣うように提案する。
「寝直さない?」
言語でないが、おおよその意味合いとしてはそんなところだろう。一考の余地はある。あるどころかすぐにでも賛成したいぐらい眠くて。
「ケド、モシ『アレ』ガ ゲンジツ ダッタラ?」
意識を手放そうとしかけたところで、僕の意識へ不意打ちの様に一つの疑問が突き刺さる。
「あ……ぁ」
誰か別の誰かの疑問ではない。夢と断定した自分に真っ向から反対する自分の一部が警鐘を鳴らしているんだ。
「起き、なきゃ」
杞憂なら、悪夢だったら寝直せばいい。けれど、先輩を救うつもりで無様に意識を失って、先輩を救える可能性を指の間から零れおちさせていたなら、僕は自分が許せない。
「人を救う力があるのに、こんなところで死んでいいはずがない人を見殺しにする」
前世の読んでいた小説のいくつかで僕はそんなキャラと出くわすと、今まで読んでたモノを放り投げた。
犠牲になったのは一時一緒に旅をしていた仲間だったり、路頭に迷っていたところを救ってくれた恩人だったり。
胸糞の悪さにキャラクターだけでなく作品も作者も嫌った。
「あんな奴らと一緒になってたまるか!」
気に入らない、気にくわない。そんな創作の中の人物とは違い、先輩を救える力もないけれど、唾棄すべき輩の仲間入りなんて御免だった。
「起きろ……起きるんだ!」
寝てる場合なんかない。僕はどうにかして意識を覚醒させようとし。
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