空から痴女が

「けど、あれからもう二か月近く経つんですね」


 ポツリ漏らしたのは、痴女先輩と放課後に空き教室でくっついている時のこと。


「あれから? ああ、キミの上に私が落ちてきたんだったな」

「はい。僕、普段あの階段使わないんですが……」


◇◆◇


 その日、僕はうっかりしていた。


「あっ」


 思わず声をあげてしまったのは、いつもは利用を避けていた階段に足を踏み入れてしまったからだった。

 もっとも、怪談があるみたいな曰くはない。ただ原作が関係してるだけで。


『異性が落ちてくる階段』


 とでも言おうか。この階段を使うと確率でイベントが起こったのだ。

 ただし、ここは中学。原作で登場するのは、ゲームをクリアし二週目のプレイで主人公を転校生ではなく今僕の通う中学からのエスカレータ組に設定した場合限定、序盤の回想シーン。

 この回想シーンでは中学の校舎を探索でき、件の階段でイベントが起きると中学生時代の異性のキャラが足でも踏み外したのか、落ちてくるのだ。

 これがきっかけで二人は仲良くなりました的なイベントであり、該当キャラとの親密度が上昇、ゲーム本編では初めから親密度が高い状態で登場することになるのだ。

 なお、一部のキャラの場合はラッキースケベイベントも兼ねている。


「いや、ゲームならいいけどさ」


 階段から落ちてくるというのは普通に危ない。ゲームでは主人公が受け止めたりクッション代わりに下敷きになったり顔面着席されるも大したケガはなしで済んだイベントだが、僕はぽっちゃり体系で主人公ほど機敏に動ける自信もない。

 主人公ではないからイベントは起きないだろうがとも思ってはいたが、万が一も考えてここは避けていたのだ、なのに。


「しまっ」

「っ」


 上から聞こえた声にハッとした僕が見たのは、上体を泳がせて降って来る千代先輩だった。


「このっ」


 咄嗟に動けたのは、イベントを知っていたからか、原作的な力が働いたのか。


「ぼっ」


 もっとも、身体能力が足りず完全なキャッチは出来なかった上に先輩の腕が顔面を直撃した僕はクッション代わりコースだったわけだが。

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