❤感触


「絹の様に滑らか」


 と言うのは、実際の触り心地が由来の表現なのだろうか。


「だが、この弾力をあわせるなら――」


 つきたての餅の方がしっくりくる。親指の腹を滑らせるようにして撫で、少し力を籠めれば沈み込んでゆく指が受ける優しい弾力。


「いい」


 どこか乱れた呼吸に挟まるように恍惚とした声が漏れ。


「あぁ、いい。……保証するよ、キミの二の腕は天下一品だ!」


 とここまでまるっと変態先輩の感想でした。

 というか、何なの、これ。


「こう、顔を埋めて思い切り息を吸いたいんだが?」

「変態だーッ!!」


 あぁ、元からだった。


「先輩、今からでも遅すぎますけど更生しません?」

「っ、今日は辛辣なモノいいだね、竹痴君」

「竹之内です。というか、僕、どうしてこんな関係にOK出しちゃったんでしょうね?」


 魔が差したのかなぁと何度目かの後悔を覚える中、痴女先輩は何やら腕を組んで考えていて。


「竹之内君、わかったぞ! 私はこれまで『猫吸い』なるモノを敢行する人々の気が知れなかったのだが、これは、そういうことなのだな?」

「全世界の猫好きにとりあえず謝れ!!!!!」


 世界中の猫好きへ纏めてケンカを売る所業に僕は思わず叫んだ。敬語も忘れてるが、もういいだろう、色々と。


「……そう、だな。この間の発言を鑑みれば、先ほどの発言は不適切が過ぎる。謹んで謝罪の意をここに表明させていただく、申し訳なかった」

「いや、この場でガチ謝罪されても、聞いてる人僕だけだと思うんですが?」


 まぁ、先ほどの超失礼発言も聞いてるのは僕だけだったと思うが、そもそもこの間の発言というのは何だろう。あの僕も男なのだな的な発言云々とその後の話のことだろうか。


「それはそれとして、こう、今日はなぜいつもに増して変態なんです?」

「ふむ、まずは変態だと言うのを否定しておくべきかで迷うところだが、話が進まないのも困るので、理由の方を先に言わせてもらおう。衣替えだ」

「衣替え? あぁ――」


 言われて僕は納得した、ちょっとできればしたくなかったが。


「夏服。半袖。ともなればわかるだろう? 合法的に直接二の腕に触れられるシーズンが到来したということだ!」


 なんと素晴らしいことかと痴女先輩は天井を仰いだ。本当にこんなのメンバーに入れててうちの学校の生徒会は大丈夫なんだろうか。


「もちろん、これはキミも私の二の腕を直に触れて揉んでもOKと言うことでもある。素晴らしいだろう?」

「いえ、よくわかりません」

「なんと?!」


 僕の答えに変態先輩はショックを受けたようだが、人間、分かり合えないことだってあるのだ。

 というか、これを分かり合ったらもう終わりだと思ふ。

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