痩せない程度に体を鍛えるのはどうだろうか


「痩せない程度に体を鍛えるのはどうだろうか?」


 僕は翌日、そんな話を痴女先輩に切り出してみた。


「竹之内君、それは?」

「竹痴で……危なッ?!」


 なんでこういう時にちゃんと僕の名を呼ぶのか、釣られて間違えられた方で名乗るところだった。


「じゃなくてですね? ほら、僕たちの何人かはダンジョン探索科に進学するじゃないですか。先輩たち上級生がいるんで、来年ってわけじゃないですけども」


 だからこそ、将来に備えておきたいのだと訴えたわけだ。前世の経験でこの手の備えがどれだけ重要かは身にしみてわかっている。若いうちの苦労がその後の暮らしの難易度に大きくかかわってくるのだ。

 中学の成績が酷いと進学できる高校の選択肢がかなり狭まる、みたいなのは中高一貫校のここではあまり関係ないのだけれど。


「ほう、それは一理あるな。だが竹之内君はダンジョン探索科に進学するつもりなのか」

「はい」


 そもそもそちらに進まなければ原作知識の活かしどころも大きく減少するのだ。他の学科では県内のダンジョンの攻略法だの、プロでも苦戦する凶悪なモンスターをダンジョン学科一年生のスペックでソロ討伐する方法とか活かしようもほぼないと思う。

 せいぜいそっちに進学したクラスメイトだとか知人にリークするとか、情報として販売するくらいだが、情報の出どころが原作知識となるとそれも厳しい。適当にでっちあげてはボロも出そうだし。


「そうか、竹之内君も男、ということだな」

「その言い方、最近の風潮的に非難されません?」

「可能性はある。だが、私は気にせんよ。なんだかんだ理屈をつけたところで、男性の多数が興味を抱くモノと女性の多数が興味を抱くモノが全く同じにならないのは事実なんだ。そこにある現実を無視して『こうでなくてはならない』を押し付ける輩はどうせどこかで痛い目を見るだろうよ」


 僕の言葉を鼻で笑った先輩はぐっと握った手を開くとわきわきさせ。


「そんな些細なことよりも私は欲望を優先させたい!」

「こう、前言が色々台無しなんですが?!」


 痴女先輩だから仕方ないとは言えもう少しどうにかならないのだろうかと思う僕にわきわきさせた手が伸びてくるのだった。


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