グレイブスキル

あさひ

第1話 アンダーグレイブ

 仄暗い行灯はところどころの綻びを映し出す

地下鉄があった場所を開拓した。

 いわば地下のフロンティア

色々な設備が揃えられていて

少しだけ地下帝国のような妄想したくなる。

「昔はこういうのはディストピアって憧れの場所だったらしい」

「バカじゃねえのか?」

「退廃的風景がえも? だったんだよ」

「色んな意味で人類はハイタイしたがな!」

 地下道ほど手入れした様子はない

しかし歩くには支障がなく

移動に苦労しなかった。

「ボコボコだけど歩きやすくて戦闘にもってこいだね」

「縁起でもないからやめろ?」

 地下の移動路では

たまにだが死喰シグと呼ばれる化け物が出てくる

死喰シグとは

この世界における人類の敵という認識で

間違いはない。

「人間型のシグが目撃されたのが二週間前だから……」

 発せられた言葉に呼応する

叫び声がこちらに反応したのだ。

「さっきまで聞こえなかったよね?」

「まずいな……」

 陽気な世界に住む片方と

戦闘慣れした

もう一人の同性は思考こそ違うが

本能で理解する。

「悪魔の手先シグレイン?」

「おそらくな」

 悪魔の手先シグレインとは

蜘蛛型でありながら上半身に

人間の容姿を持つ

中級クラスのシグだ。

「構えろっ!」

「え? まだ……」

 後ろでニヤッと笑ったのは

シグレインである

構えた一人の少女だけは避けたが

もう一人は白い塊に吹っ飛ばされる。

「グアッ?」

 どうやら二人とも吹っ飛ばすつもりだった

そんな顔で睨んできた。

「てめえこそ殺す気か?」

「グアッハハッ」

 嘲笑うようにシグレインは

こちらに突進する。

「グレイブスキル!」

《認識のズレがあります》

「ちっ! こんな時にか?」

《サブスキルでの戦闘をしますか?》

「仕方ないな……」

 発言に対し

デバイスのような機器が反応した。

 光がナイフになる瞬間に

シグレインの足が胸に届きそうになる。

 光のナイフが防御したのは

貫通ダメージだけではない。

「毒なんて知るかぁ!」

 シグレインの足ごと

大きな体躯を吹き飛ばす。

「グギャァアッ!」

 ひっくり返った巨体は

足をバタバタする動作で起き上がろうとする。

 しかし上からナイフを何本も呼び出し

投下し始めた。

 シグレインの全身をハチの巣になるまで

光のナイフが弾丸の如き威力で

物理的な損害をぶつけていく。

「サブグレイブスキル《死人へと手向け》」

 墓標のように

地面から光の柱を生成した。

 シグレインが灰塵と化す

そして灰の中からメモリーチップが出てくる。

「まさか団員か?」

「団員…… ですか?」

 死喰シグはある時にメモリーチップが

残るということがあるのだ。

「これで復元できるな……」

空詩芽からしめ助教授に言うんですね」

「研究所に向かう最中とはな」

 二人の少女は研究所という施設がある

第二地下区画に向かっている。

 第二地下区画は

何らかの原因で死喰シグになった

人間を一時的に人形騎兵へと

メモリーを保存する。

 そしてクローン技術により

引き延ばした後で

女性団員の血液で作った肉体を用意するのだ。

「これでシグレインの正体がわかるかもしれないな」

「正体? あれは化け物では?」

 当然の疑問をぶつけた少女に

先輩女子は頭をかかえながら

呆れて説明する。

「お前は座学中に居眠りしたんだったな……」

「褒めないでくださいよぉ」

「後で訓練中が楽しみだわぁ」

 背筋がゾッとするくらいの殺気を

目に刻むと表情を明るくした。

 二時間以上の対人戦闘が待っているという

指標である。

 少しだけ時間がフリーズした

女子団員を後目に研究所に走り出した。

 シグレインの後で

走ると痛みが脇腹から体中を巡る

当たり前に知っている。

「先輩? 痛いんですけどぉ?」

 素っ頓狂に声を出す女子を

徹底的に無視した。

「聞こえないんですかぁ?」

 まだ無視する。

「この老いぼれが……」

 遠くからナイフが頬をすり抜けた

サラッと血が垂れた。

「冗談ですよ? またビーカーに入りたくないですよぉ」

「走らないとまた出てくるかもなっ!」

 思わず周りを見渡すと

薄暗い脇道がところどころに確認できる。

「ひぃっ!」

 痛みも忘れて後を追う

若干だが半泣きで必死に走った。

 電灯がチカチカと

カラカラ笑うように二人を見守っている。


 残酷な事柄には裏があり

そして表面などは些細な嘘を誤魔化す

看板のようなものだ

単に刻まれた絵画やイラストでは

計り知れないと同源なのだ。

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グレイブスキル あさひ @osakabehime

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